シークレット・ガーデン
・庭師の娘(1)
「『古王国グランドールへは乗合馬車宿込で一日半、あるいは教会の移動法陣で。』……って、どっちもお金かかるなぁ。節約しなくちゃいけないけど、グランドールにはぜったい行きたいし~」
簡略化された地図の道程を指先で辿りながら、ローレルはつぶやいた。
そうして買ったばかりの観光マップを丁寧に折り畳み、膝に置く。
屋台で購入したサンドイッチを取り出し、少し遅い昼食に取り掛かった。ゆっくりと食みながらこれからのことを考える。
現在地は、彼女が目的地と定めた東の古王国より北西にある宿場街ルアート。
地図上ではルアートからグランドールまでほんの少しの距離に思えるが、間に山があるため徒歩で行くにはかなり大変だ。
しかし、心もとない路銀のことを思えば、徒歩で行くしかない。行かない選択肢は元からない。
なんといっても、グランドールは一般人が王宮庭園を無料で見学出来るのだ。ここ大事。
無 料 !
話によれば五百年前の庭園も残っているらしい。
さすがにそちらは見学出来ないとしても、庭師の端くれとして、是非とも王室仕えのプロの技を拝見させていただきたい。
――それに、大きな城下町なら働き口があるかもしれないし。
公園のベンチに腰掛けたまだ年若い彼女が持つのは、一抱えある鞄と、何よりも大事な養父の形見が入った小ぶりのリュック、厳重に身につけた財布の中の現金。
これが今のローレルの全財産だった。
ローレルが生を受け、十五年を過ごした屋敷を出たのは、今朝方のこと。
十五才になれば成人とみなされ、自分で自分の生き方を決めることが出来る。
両親がそろっていれば働くなど考えず、上の学舎にでも進むのだろうが、ローレルはみなしごだ。
生きていくために、自分で働いて金を稼がなくてはならない。
彼女の母は、メイドとしてあの屋敷で働いていた。
ローレルを生んだ数日後に産褥により亡くなったため、身寄りのなくなったローレルは孤児として教会に引取られるはずだった。
だが、母を妹のように可愛がっていたという庭師が、赤子のローレルを引き取り、この歳まで育ててくれたのだ。
その彼も、昨年流行り病で逝ってしまった。
お屋敷に雇われていたのは亡母で、養父で、ただの養い子の自分はあそこにいる理由がないし義理もない。
だから、出てきた。
幸い、養父が無駄にはならないからと、持てる全ての知識を与えてくれたから、学舎に通わずとも読み書きは普通に出来るし、大抵のことはやり通せる根性も持っている。
養父がローレルに与えてくれたものの中で、彼女が最も大切にしているのは、緑を愛すること、植物を育てること。
出来るなら庭師として働くのが理想なのだけれど――、