シークレット・ガーデン
・娘と青年(1)
ジットリ、不審なものを見る眼で自分を凝視する少女を見下ろし、青年は眉をひそめた。
「……何故要求通りにしたというのに敵意が増す」
理不尽な娘だな、と異議を申し立てる青年に、思わずローレルはツッコんだ。
「手の一振りでこんなんなっちゃったら庭師はいらんのよ! 朝昼晩毎日土にまみれて働いてるあたし達の身になれっつうのッ!」
彼女の言い分に少し辺りを見回し自分が起こした現象の効果を確かめた後、青年は頷いた。
「安心しろ、こんなことが出来るのは世界で俺くらいだ」
僅かに威張って言われた言葉にローレルは呆れた視線を投げる。
「……うぅわ~、何その自信。何様だよ」
「俺は――」
「おい! 公園で暴れているのは君達か」
青年が何か言いかけたその時、厳しい声が向けられた。
通報があったのか、二人組の警吏がこちらへやって来る。
遅いっつうの、とローレルは全てが終わった後で姿をみせた彼等に内心舌打ちする。
まあいいや、厳重注意してもらおう、と、青年を彼等に突き出そうと口を開き――
「騒がせてすまん。ただの痴話喧嘩だ」
「む……もがッ!?」
背後から抱き寄せられ、青年の胸の中に引き込まれたかと思うと、発言出来ないように手のひらで口を塞がれた。目を白黒させ、もがくローレルの耳元に甘い声が落とされる。
「ああ、悪かったよ“ローレル”もうよそ見はしないから許してくれ」
腕の中で暴れる少女に、楽しげな睦言をささやき、いかにも怒っている彼女をなだめている、といった風に演技する青年に、抗議するローレル。
「もがが! んぐ~~~ッツ」
(誰が信じるかそんなウソ芝居ッ!)
そう思ったローレルだが。
「……あぁー、まあケンカも程々に」
「他人の迷惑にならないように、仲良くしなさいね」
(信じたッ!?)
愕然としたローレルをよそに、生ぬるい笑みを浮かべた警吏達はやんわりと二人に注意をしただけでアッサリ去ってゆく。
(っ……て何ィ!? 何で信じる!! ちょっと待ってよ、待ちやがれっつうのおまわりィィ!!)
ローレルの心の叫びは届かず、彼女の口を塞いだままの青年が呟く。
「人徳だな」
それを耳にしたローレルに本日二回目の限界が訪れた。
歯が丈夫なことに感謝して。
ガブリ。
噛んだ。