恋愛ターミナル

「亜美ちゃん、こっち向いて?」
「……」


いやいや。向けないよ。そんなフリ、余計に振り向けないっ。
私が動かずに下を向いていると、晃平さんの声がしなくなった。

……どうしたんだろう?
私が半ば強引に飲みに誘って、八つ当たりして、泣いて……それで、今度は顔を見せないってなったから、怒ってるのかな……。

だけど、まだ席は立っていないのを背中越しに感じると、そのまま神経を背中に張り巡らせて、晃平さんの様子を窺う。

すると、「うっ」と苦しそうな晃平さんの声に、迷わず振り返った。


「だっ大丈夫ですかっ?!」


結構強いお酒頼んだりしてたから、具合悪くなったのかも!

自責の念を抱きつつ、お腹を抱えた晃平さんに触れようとした。
その瞬間に、急に顔を上げられて私は絶句する。


「ごめん。ウソ」
「ひ、ひどい!」
「だって、全然こっち見てくれなさそうだったから。亜美ちゃんなら優しいから心配掛けたら、すぐ振り向いてくれるだろうなぁって」


「優しいから」と言われて、なんだかすごく嬉しかった。
けど、そんなことを言う晃平さんのほうが、よっぽど優しいよ。


「目、閉じて?」
「へっ?!」


な、なにを急に……!
「目、閉じて」だなんて、まままま、まさか!

ズキズキとしていた胸が、ドキドキと音を変える。
パニックになった私を、晃平さんは「ほら早く」と急かす。

え、ええい! もうどうにでもなれ! 

頭の片隅で、もしも自分の想像通りのことが起きてしまったら、お酒のせいにしてしまおう。
そんなことまで考えて、ぎゅっと目を瞑った。


「そのまま、ね?」



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