恋愛ターミナル


「毎度さまでーす。あ、凛々センセ!」


保育後、ちょうど教室の展示物を貼る仕事がひと段落したところに、杉中さんがやってきた。

徹平と一緒にいたときには、杉中さんには申し訳ないけど、あの『真剣に結婚考えて』って話をすっかり忘れていて。
でも、出勤してきたあとに思い出して、一日中どういう言葉で伝えようか考えてた。


――答えは決まっているんだけど。


「杉中さん! あの……すみません。私ずっと、連絡しないまま……」
「ん? あー。まぁ、なんとなく察してたよ。でも、一応聞こうかな? 凛々センセの返事」


誰もいない教室で、向かい合った杉中さんに、私はすぅっと息を吸って、一気に言う。


「ありがとうございますっ。……でも、ごめんなさい。やっぱり、彼しか考えられないんです」


なんか、すごい恥ずかしいこと言ってる、私。
でも、それ以上に杉中さんは精一杯、私に告白してくれたはずだから。


それでも、まっすぐと見つめていたはずの視線が、だんだんと床へと落ちて行く。
私の言葉に、少し間をおいて杉中さんが口を開いた。


「絶好のチャンスだと思ってたんだけどなぁ。あの彼と会うまでは」


徹平と会うまで? あのお店でちらっと見ただけだと思ってたけど、もしかして私が飛び出したあと二人の間でなんか話をしてたの?

徹平はなんにも言ってなかったのに……。


疑惑の眼差しを杉中さんに向けると、その視線を察して「ああ、知らないんだ」と笑いながら説明してくれた。




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