恋愛ターミナル


「ただいまーっつって、誰もいないよねー」


今日は比較的いつもより早く帰宅した。
夕飯なににしようかなーなんて考えながら。そして、杉中さんに聞いたことをずっと思い返しながら。


「……まさか、徹平が――」
「お」
「ぎゃあ!!」


玄関にいた私の背後で声がする。
心当たりがない声に、可愛げのない叫び声を披露した。


「……そんなに驚く? 傷ついちゃうなーおれ」
「てててててっぺ……なんで!」


いつもこんなに早く帰ってなんかこないくせに!
油断してたから、本当に心臓が止まるかと思っちゃったじゃない!


「んー今日はちょっと」


そう言いながら、私よりも先に靴を脱ぎ、さっさと部屋に上がってしまった。
心臓に片手をあてて、呼吸を落ち着けながらあとを追う。

リビングで徹平がネクタイを緩めながら、振り向いて聞く。


「で? 『まさか』おれが、なに?」
「えっ……き、聞こえてたの……」
「なんだ、昨日の今日でまたなんか疑ってんの? 凛々ちゃん」


「ちゃん」なんて、そんなふうに呼ぶときはからかったりするときでしょ。
私の顔を覗き込むようにして、私の反応を楽しもうとしてるんだ。


「別にっ。ただ聞いた話が怪しいな、って思っただけ!」
「誰になにを」
「――杉中さんに、土曜の夜のこと」


半信半疑の私の言葉に、徹平の顔色が少しだけ変わった。


「杉中さんが、徹平に『追い掛けなくていいの?』って言ったら、『だって、あんたが今は追い掛けるんでしょ?』って言われたって」


そう。杉中さんは確かにそう言ってた。


そして、その続きが――。



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