恋愛ターミナル
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「じゃ、悪いけど。またね」
ひとしきり鬱憤を晴らし、買い物も両手でぎりぎり持てるほどして、タイムアップの8時前に梓と別れた。
「はぁ」と一人になった途端、気が抜けて荷物が重く感じる。
荷物だけじゃなく、足取りも同じで、ものすごくゆっくりと歩を進めて駅に向かう。
何気なく行き交う人を見ると、友達同士だったり恋人同士だったり……。
土曜の夜はこれからだし、とても楽しそうに笑って歩いてる。
そこいくと、この自分。
一人きりでたくさんの荷物を抱え、暗い顔で家に向かう26歳。女。独身。
――彼氏はいるけど、いない――。
「った!」
地下鉄の入り口に足を踏み入れたときに、後ろから頭に軽い衝撃が走り、思わず声が出てしまう。
頭を押さえたくても両手は塞がってるし、なにより突然のことに心臓が跳ね上がるほど驚いて怖かった。
逃げればいいものを、反射的に振り向いてしまう。
そこにいたのは、痴漢でも強盗でもなく、私の彼氏だった。
「て、てっぺ……」
「なにをふらふら歩いてんだよ」
スーツを着て私を見下ろす徹平は、悔しいけどかっこいいとやっぱり思う。
「別にっ。誰かさんのせいで、あまりに暇で、楽しくノリノリで買い物してたのよ!」
「そのわりに、浮かない顔してんのな」
げ。そんなことまでお見通し?!
固まった私を可笑しそうに見下ろす徹平は、私の両手の荷物を奪った。