恋愛ターミナル
「ほら。サラダきたぞ」
差し出されたガラスの器に盛られた白い豆腐。それをぐちゃぐちゃっと崩して食べるのが好き。
そんなこと、普通家族以外の前で出来ないし、まして好きな人に見られるなんて……。
「……ぷっ。相変わらず原型ねぇな」
「……いいの。これが好きなの」
横目で私を見て、徹平は吹き出した。
私はそんな視線と笑いをものともせず、まるで白和えのような出で立ちの豆腐を口いっぱいに頬張る。
「おいひぃ」
別に家でも出来るメニューだけど、あまり家では食べなくて、ここで食べるようになってる。
徹平はビールを飲んで、「そりゃよかった」と笑うと、次に運ばれてきた牛スジに箸を伸ばしてた。
もくもくと料理を食べ、ぽつりぽつりと会話を交わす。
「今日、早いね」
「まー土曜くらい。早く帰りたいし」
「明日は?」
「明日は休み」
「……ふーん」
箸の先を咥えたまま、『明日は休みなんだぁ』と心で呟いた。
「どっか行きたい?」
まるで心の声が聞こえてたかのようなタイミングで、徹平が言った。
あまりに絶妙なタイミングだったから、本当に声にしてたんじゃないかと思って驚くと、うっかり箸を落としてしまった。
「おい。ガキか。箸を咥えてたかと思えば落としやがって……とうとう仕事先の園児に染まってきたか」
「だったら明日買い物すればよかったなー」
「おれは買ってやらねーぞ」
「ケチ」
少し酔って来た私は、だらしなくテーブルに肘をついて口を尖らす。
徹平は笑って、テーブルの上の料理を綺麗に平らげて行く。
外食しても、基本的には残さない徹平が好印象だった。
私の作る料理も、失敗しても、文句を言いながらもちゃんと食べてくれる。
そんな徹平を見て、私はいつも思ってた。
『徹平と結婚したら、こんなささやかな幸せを感じられるのかな』って。
けど、現実には結婚の“け”の字も出ない私たち。