恋愛ターミナル

「徹平! 映画行きたい! てか、行こう!」


ゆさゆさと徹平の体を揺すると、もぞっと布団の中身が動く。
ぬっと出てきた寝癖頭の徹平は、重そうな瞼を押し上げながら起きた。


「……映画ぁ?」
「うん、コレ! 徹平も好きそうじゃん。恋愛系じゃなくてアクションものだし」
「んー……じゃあ、行くか」


やった! 映画デート! 超久しぶり!!


試写会の当選はがきを握りしめて、リビングで小躍りする。
その動きを止めて気がついた。


私、映画よりも“徹平と”映画に行くのが楽しみだったんだな……。
そういえば、そもそもこの試写会に応募したのだって、徹平が好きそうだなーとか思ってだし。当たればそれを口実に誘えるし。

――口実に、って、なんで長年つきあってるのにそんなこと考えちゃうんだろ。
二人だけの生活って、慣れてしまうと逆に、改めてどこかに行こうとか誘うのにきっかけが必要なんだなぁ。

いや。世の中の同棲しているカップルみんながそうだとは思わないけど。
うちの場合……私の場合は、そうなんだ。

こんな熟年夫婦みたいな空気じゃ、いつまで経ってもプロポーズなんてされないって。
もともと、一緒に住むようになったきっかけだって、私が「もっと一緒にいれたらなぁ……」ってぼやいたのを聞いてくれてそうなったっけ。


徹平から、っていうの、高校のときの告白くらいかも……。

だから、昔(そのとき)のように。
一緒に出掛けて、手を繋いで、笑い合って……。
フツーの“恋人同士”のように甘い時間を過ごしたら、久しぶりにドキドキするようなシチュエーションになって。


徹平から指輪とか差し出されながら、『結婚しよう』とか言われないかな――。



< 67 / 170 >

この作品をシェア

pagetop