恋愛ターミナル


今、どのあたりのお店で飲んでるのか、何時なのか、全くわからない。
それでも、隣で話を聞いてくれる人がいることで、完全に安心しきってた。


「――それで、最後のお母さんへの手紙でいずみが……」


思い出したくもない結婚式。
だけど、逆に記憶にはしっかりと残っていて、それを自分の中に留めておけなくて。

カウンター席についていた私は、二次会から参加したというのをいいことに、晃平さんに一部始終を説明する。

――作り笑いで、心で傷つきながら。


「『裕貴さんと幸せになります』って言いきれないうちに、泣いて――……」


いずみのは、幸せの上にある涙。
私のはそうじゃない。苦しいけど、流せない涙が溜まりに溜まって、こうして、笑うしかない。

心と顔のバランスが取れない。
どうしたいのか、わかんない。

誰か、私に心から『愛してる』って言って――。


咄嗟にそんな顔を見られたくなくて、両手で自分の顔を覆った。

すると、ガシッと左手首を掴まれて、私の顔が露わになる。


「――――泣け」


晃平さんのその一言に、頭が真っ白になった。

晃平さんは、いつから気付いてたの?
もしかして、4人で遊んでるときから、私の気持ちに気付いてたの?

「泣け」と言われてすぐに泣けるほど、私の想いは簡単なものじゃなかった。

目を瞑り、無言で首を何度も横に振る。
すると、晃平さんの私の手を握る力がさっきよりも強くなる。


「裕貴に告(い)っちゃえよ」
「告(い)えるわけないじゃない……!」
「じゃあ、オレに吐け」


強い口調に、思わず目を開き、晃平さんを見る。
隣に座る晃平さんは、まっすぐな目で私を見てた。

その射るような目から視線をそらすことが出来なくなって、ただ、時間が過ぎて行く。






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