お嬢様の事情その1

トライアングル



その次の日、林檎は昼休みに綾美を広場に呼び出した。

薔薇の咲く花壇が美しく芸術的に目を潤してくれる。

見つけにくい奥まった場所にあるこの広場は二人だけで話すのに最適だった。

『何の用かしら。』
綾美はキッとこちらを訝しんでいる。

林檎は綾美に真剣な眼差しを向けた。
『私ね。今回のことで気づいたの。貴方の気持ちにね。』

そう林檎が言うと綾美は口をひん曲げた。

『貴方に何がお分かりになるのかしらね。』

冷たく綾美は言った。
そして林檎を鼻で笑うと肩をすくめた。

『馬鹿になさらないで。』
林檎はピシャリと言葉をぶつけた。

『貴方、静香が離れて行くようで怖いのでしょう。違って?』
林檎は静かに低い声で言った。

暫くの沈黙が続いた。

『私が?ふざけないで。』

綾美は怒りを無理やり引っ込めて声を絞りだしたようだ。


林檎はたたみかける。

『ふざけてないわ。そんなんじゃ離れていくに決まっているもの。私と静香が親友になっていくのが辛いのでしょう?まるで貴方はとっくの昔に通り過ぎた田舎の無人駅ね。嫉妬して会社経営に影響を出すなんて子どもじみているわ。あなたって人はどうしようもないの。綾美、そんなことをする人間に静香がついてくるかしら?終わっているのよ。あなた。』

言い終わるか終わらないうちに綾美は怒りを口にした。

『わかったようなこと言わないで!!』

『私が田舎の無人駅?私と静香は幼稚舎からの仲よ。貴方みたいなどこからきたか分からないような方に言われたくないわ。』

『貴方なんか、、、』

綾美はそこまで言うと屈辱で声をつまらせた。

林檎は問うた。
『静香が貴方から離れるはずはないというの?』

綾美は手を握りしめて林檎を睨む。
『当たり前じゃない。貴方なんてめじゃないわ。』

林檎は自信ありげに口角を引き上げた。
『それならお家騒動を収めて私と正々堂々静香の奪い合いをするのね。』


綾美が口を開きかけた時、スッと剪定された薔薇の陰から静香が現れた。

静香は冷静な顔で綾美の前に立った。
凛としたけれど静かな声が綾美に突き刺さる。

『綾美さん。私ね、林檎も綾美も二人とも好きよ。』

『こんな事になったのは私のせいでもあるから黙っていられないの。』

綾美は突然現れた静香に目を見開き絶句した。

『何を、、、』

そう綾美が呟くと静香が再び口を開いた。

『綾美。私があなたのことを考えないとでも思った?』

静香の言葉が一つ一つ綾美に降りかかる。

『あなたを親友に選んだのは私。あなたも私を親友に選んだ。それが紛れもない事実。違って?』

静香が綾美に一つ言葉を渡すたび一歩前に進む。

『沢山の思いでは私と貴方のもの。違って?』

『私の気持ちは変わっていないわ。』

静香がそう言い終えたとき、静香は綾美の前に立っていた。


綾美はふっと俯く。

そして静香は続ける。
『林檎はね。貴方のこと本当は友達だと思っているのよ。これは紛れもない事実。そうでしょう?林檎。』

林檎はそうね。と続ける。

『私ね。貴方に静香が離れるはずはないってわからせたかったの。』

酷いこといってごめんなさい。と林檎。


綾美は頬を伝う涙を静香のハンカチで拭いながら本当よ!としゃくり上げた。

『貴方、みてらっしゃい。私は会社を使わずとも貴方を倒せるんだから。』


そう言って綾美は憑き物が落ちたように不敵に微笑んだ。
林檎もふっと微笑んで負けないわ。と綾美に返すのだった。


なにが変わったかって?
それはなにかわからないけど、
確実に三人に前にはないものがある、、、かな。
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