恋する吹奏楽部
-岡重薫視点-
とても楽器を始めて4ヶ月とは思えないような演奏だった。
ほぼ一年生だけのステージだったのだが、迫力ある演奏で、この子たちのこれからが楽しみだった。
いくら吹奏楽部の顧問と言っても、私はコンクールメンバーの合奏に付きっきりだったため、一年生と少しの二年生で編成されたこのチームの演奏をしっかり聴いたのはこれが初めてだ。
うまい。
そして、プログラムの曲が全て終了した。
すると客席からは驚くことにアンコールが出た。
毎年そうなのだが、このステージはアンコールは準備していない。
メインステージではアンコールを二曲ほど準備しているのだが、とても一年生にはきついだろうということでいつもやっていない。
こんなに大きな手拍子でアンコールをもらったらそりゃ嬉しいと思う。
アンコールもしたくなると思う。
でも残念だなぁ。
そう思っていると___
なんと美蓮ちゃんが指揮棒を構えた。
「え?」
このステージを見ていたコンクールメンバーのやつらもびっくりしていた。
そして流れたこの曲は…
「ありがとう」だった。
短い演奏が終わると、ステージのメンバーが全員前を向き、
「「コンクールメンバーのみなさん、岡重先生、全国大会がんばってください!」」
と大きく言い放った。
隣に座っていた部長の夏目は一年生の成長ぶりにうっすらと涙を流していて、静かに
「ありがとう」
と言った。