恋する吹奏楽部
エンターテイメントマーチ
「夕璃。」
「・・・夢雨?」
「うん。」
「どうしたの?」
「ちょっと相談。」
「乗って欲しいの?」
「いいかな?」
「いいわよ。」
夢雨が相談なんて珍しいな。
しかも下の名前で呼んでくれてる。
「ご要件をどうぞ。」
「ゆ、佑都の事なんだけどさ・・・。」
「あ、えっと、たしか。。。」
「う、うん、俺・・・。佑都が好きでさ・・・。」
「き、聞いたことあるよ・・・。」
「ごめん、気持ち悪いよな。」
「ううん。人それぞれだもん。で?」
「いや、望月と佑都別れたじゃん。」
「あー、祈舞から聞いたわ。」
「だから、今のうちに、佑都に気持ち伝えたくて。」
「今のうちってのは佑都がフリーのうちに、ね。」
「うん。」
夢雨がすごく真剣だ。
そのくらい佑都が好きなんだなぁ。。。
その好意は私に向くことなんてなくて。
「うらやましいな、佑都。」
「・・・。」
「すっごく大事にされてるんだなぁ。。。」
「いや、部活の仲間はみんな大事だから!」
「そっか。」
その中で一番はやっぱり佑都かな。
「どうしても佑都に想いを伝えたいんだ。」
「そっかぁ・・・。」
「なんていうか、きゅんってなる告白とかあるかな?」
-告白-
この言葉が出た時に私に激しい衝動が走った。
夢雨に教えてあげたいのに。
もうひとりの自分がそれを阻止する。
「教えてくれないかな?」
「・・・・教えてあげるかわりに・・・。」
「?」
「夢雨のファーストキスを私に頂戴?」
「えっ、夕璃?」
もうひとりの私が私を操作する。
「ふぁ、ファーストキスは、あげた・・・。」
「誰に?佑都?」
夢雨の顔が真っ赤になり、夢雨は手で顔を隠した。
あぁ、だめだ。
こんなことをしてはだめだ。
わかってる。
でも、今の私は私じゃないし、手が止まらない。
私の手が顔を隠していて私のことが見えない夢雨の首に近づく。
二人だけの放課後の教室。
何処か遠くでチューバの音が聞こえた。
「むうううううううう」
教室に入ってきたのは佑都だった。
「「佑都」」
私は手をさっと下げて、夢雨は顔を上げた。
「え、あ、お取り込み中?」
「いや、ちがうよ。係のことでね。じゃ、夕璃。」
「ばいばい、夢雨。」
佑都と夢雨が一緒に教室を出て行った。
私、なにしてるんだろう。
もう夢雨のことは諦めたはずなのに。
私のこの手が好きな人を殺してしまう凶器だなんて。
もうひとりの島津夕璃がここにはいる。
私の中に。
-廊下-
「むー、島津と何してたの?」
「係の打ち合わせ。ゆーとこそなにしてんだ。練習しろ。」
「えへへー。実は教室に忘れ物しちゃって取りに帰る時に隣の教室にふたりがいたもんだからさ。」
「忘れ物とか・・・。」
「これからちゃんと練習するしー。」
「若葉に怒られないのか?」
「今日若葉がお休みなの。だからパートリーダーいないのー。」
「だからってなぁ。」
真面目にやれよ。夢雨はそう言って俺の頭をそっと撫でた。