恋する吹奏楽部
谺響する時の峡谷

私は聞いてはいけないことを聞いてしまった。
河原兄弟が二人で喋っているのを。
やっぱり千穂は私のことがすきじゃない。
私はもう幸せになれない。
誰かと付き合うなんてできないんだ。
どうせ付き合ったって長続きしないし。
しかも千夏ちゃんが言ってたことによると、千穂はゆりちゃん?
たぶん一年のチューバの鶴巻ゆりちゃんが好きみたい。
ロリコンめ。
「祈舞ううう!!」
「ち、千穂!?」
やめてよやめてよ!!
来ないでよ!
近寄らないでよ!
私のこと好きじゃないんでしょ!?
ほっといてよ!!!
「祈舞待ってー!」
「待たないわよ!」
千穂がどんどん階段を下ってくる。
やばい、千穂足速い。
「祈舞!ストップ!」
「いやよ!来ないで!」
私も必死で階段を下り、一階の廊下を突っ走ろうとしたそのとき、

「祈舞っ!」
「ちょっ」
後ろから千穂が抱きしめてきた。
元カレの佑都にさえもされたことのなかったこの行為。

「やめて…千穂…」
思わず泣き出す私。
「祈舞、千穂のせいで泣いてる?」
「違うよ、違うよ、悪いのは私なんだよ、千穂は悪くないよ。」
「じゃあなんで?」
「私、私・・・。千穂はどうせ私なんか好きじゃないに決まってる。とか思ってた。でも、でも。私も千穂と付き合ってるとか言っておきながら、千穂のことちっとも考えてなかったじゃん!もう消えてなくなりたい!私のことを愛してとか言っておきながら結局自分は誰も愛せてなかったじゃん。本当ばかじゃん。あああああああああもう!!!!」
私はそこに泣き崩れてしまった。
「祈舞、顔あげて。」
千穂がいったので、顔を上げると、
「部活、行こう?」
千穂が手を差し出してきた。
「皆がいるよ。」
そう言って千穂がニコっと笑った。
「ありがとう。」
手を取って立ち上がった。
そう、私たちは去年一緒に全国一になった家族。
皆愛し、愛されてるんだ。
「先輩!」
「お兄ちゃん!」
そこにちょうど千夏ちゃんとゆりちゃんが来た。
「ほら、ゆり。」
千夏ちゃんがゆりちゃんの背中をポンと押した。
「え、えっと・・・。河原先輩・・・。」
ゆりちゃんがもじもじと恥ずかしそうに千穂の前に立った。
「どうしたのゆりちん。」
「いや、えっと、その・・・。私。。。」
「?」
「河原先輩が好きなんです。」
「~~~~~~~っ!?」
千穂が目をまん丸にした。
いや、面白すぎでしょその顔。
「千穂も!千穂も!ゆりちん大好き!!」
「あ、あ、ありがとうございます!!」
「わああ!ゆり、おにいちゃんおめっとー!」
「千穂、ゆりちゃんおめでとう!」
「望月先輩もこれからですよ!」
「ありがと、千夏ちゃん。実はもう狙ってる人がいるの!」
「望月先輩吹っ切れるの早すぎですよw」
「えへへ~w」
「じゃ、二人共お幸せにー。」
「お幸せに。」
「ありがとう、千夏、祈舞。」
「千夏大好き。ありがとう!望月先輩も!」
少し大人っぽくなった千穂と嬉し泣き状態のゆりちゃんを二人きりにするため、
私と千夏ちゃんはその場を去った。
実はこの時、正面玄関で事件が発生していた。
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