恋する吹奏楽部

最近出番がない主人公の宗次梨恋です。
忘れないでください。
夏休み二週間目。
先輩たちは一音で岡重先生とコンクール曲を仕上げる。
そのあいだ一年生は二音で美蓮先生とオータムコンサートにむけて合奏を続ける。
今一年生は大曲のたなばたを仕上げている最中だった。
「じゃ、アルトのソロから。さん、しっ」
先生の合図でアルトのソロを任されている西来路 美栗(さいらいじ みくり)が音を出す。
このソロは先週の合奏で美栗が吹くことになった。
音程、リズムだと、市嶋 音色(いちじま ねいろ)や海川 永瀬(うみかわ ながせ)に比べてダントツだから。
決まった時は音色と永瀬が大泣きしちゃって大変だった。
「こまったなぁ。」
美蓮先生が指揮をやめた。
それと同時に美栗が吹くのをやめた。
「みくりん、毎回言ってるけど、音ちっちゃいよ。もう一回。さん、はいっ」
それでも音量は変わらず。
「・・・永瀬っち入って。」
「・・・はい!」
「じゃ、みくりんと永瀬っち。さん、はい」
音程が気になるけど、音量がだいぶ変わった。
音程を整えてるのは美栗だけど、どう考えても永瀬のソロになってる。
「永瀬っち、先週の合奏でみくりんに決まった時からずっと諦めないでソロ練習してたよね。いいと思う。だいぶうまい。音色ちゃんも音程良くなってるし、・・・。よし、永瀬っち、チューニングしよう。」
永瀬がチューニングがしおわり、
「永瀬っちだけで、さん、しっ。」
あ。
みんな思った。
永瀬が確実に上手くなってるんだと。
これは美栗を超えていると。
永瀬がソロを吹き終わって、先生が言った。
「今からアルトの三人で、教室戻って練習して。今日合奏し終わったらサックスの二三年生と岡重先生と審査する。オーディションします。」
そしてアルトの三人が顔を見合わせ、音楽室を出て行った。
「じゃ、テンポプリモから。」
「はい。」
先生が私の顔を見た。
私のティンパニが決める。
そして金管が上がってくる。
それから打楽器がまたかっこよく決める。
すぐ木管にかわり、低音が決める。
トランペットが輝いたあと、流れ星のピッコロの連符。
静かなメロディーがながれ、ユーフォがでる。
トロンボーンのソロ、トランペットのソロが続く。
そのとき、私はあることに気がつく。
トロンボーンの木下 梨桜(きのした りお)が吹くのをやめている。
ソロは千笑だから吹いてないのは当然だと思うかもだけど、そういえば、テンポプリモから吹いてないと思う。
なんで?
そんなことを考えてる間にも曲は終盤に差し掛かり、遂に一番最後のティンパニのソロ。
やっぱり崩れる。
失敗して、今日の合奏は終わった。
時刻は五時半。
「梨恋。」
「ん?なに?」
知弥に呼ばれた。
「最後のティンパニのことなんだけど。」
「あ、ごめん。今日も失敗しちゃった。」
「いや、別に責める気はないんだけどさ、今度打楽器分奏したいなっておもっててさ。」
「ふぁー、いいかも。私もここのリズム教えて欲しいし、みんなの音も聞いてみたいな。」
「おっけー?だったら皆にも伝えるけど。」
「あれ、まだ伝えてないの?」
「おう。いや、打楽器一年のパートリーダーっていったら梨恋だろ。頼むぜ。」
知弥が私の肩をポンと叩く。
どき。
「う、うん。」
「ティンパニ頑張れよ。」
知弥の声が少し悲しさを帯びていたけど、そんな事気にもとめなかった。
でも、そのときは刻一刻と迫ってくる。
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