恋する吹奏楽部
世の中の人間は私を岡重薫と呼ぶ。
それもそう、皆本当の私を知らないから。
はやく、はやく、誰か気がついて_____。
「岡重先生。」
「ん?」
私は机に本を置きっぱなしだったことに気がつき、本を引き出しに戻す。
「柳先生のお話、あれ本当なんでしょうか?」
「・・・さぁ。」
「謎の9人目。オーボエ奏者。本当に実在したんでしょうか?」
美蓮ちゃんが柳先生に質問していたが、柳先生は、
’さぁー。一昨年も前のことだもの。忘れちゃったわ。’
なんて笑ってごまかしていたけれど、そんなのおかしい。
自分が選んだオクテットだろ?
自分が才能があるって見込んだ子たちを忘れたのか?
しかもあの伝説のオクテットだぞ。
おかしい。
勇舞には一体なにがあるんだ?
オクテットはそもそもなんであるんだ?
木管重奏でも金管重奏でもなく、毎年毎年まったくパートの違う子をオクテットとして一括りして。
なんでだ?
たしかにオクテットに選ばれた子たちはさすが柳先生という程うまい。
今のオクテットのクラリネットの椎名ろんくんなんか、私よりうまい。
美喜なんかと比べ物にならないほど。
そして伝説のオクテット、11代目の益田明子。
あの子はまさしくクラリネット中学生最強だと言える。
「勇舞の子ならなにか知ってるんじゃねぇの?」
「・・・。」
美蓮ちゃんが私の意見に反応する。
「・・・そうですよね。」
「?」
「勇舞の子ですか・・・。」
「美蓮ちゃんどうした?」
「い、いえ、なんでもないです。それより、その部費、集計しますよ。」
「あぁ、ありがとう。」
さっき春菜が持ってきてくれた部費を美蓮ちゃんに渡す。
「・・・私は、オクテットの子がすごいと思うんです。」
「まぁ、柳先生のご指名だからな。」
「はい。でも、」
「ん?」
「オクテット以外の子もすごいですよね。」
「え、あー、うーん。まぁ、中学生にしてはすごいな。」
「ソロコンテストも、オクテット以外の子が関東大会行ってましたもん。」
「そういえば、関東いった勇舞のクラリネットがろんくんじゃないって美喜が言ってたなー、そういや。」
校内放送がながれ、美蓮先生は職員室に呼ばれたため、準備室を出て行った。
私は引き出しから本を取り出す。
また、また、まただ。
書かなきゃ。
書き続けないと。
まだ楽器がやりたいんだもの。
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伝説の八重奏から二年。
突如現れた謎のマルシュアス。
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私はいつまでこれをしなくちゃいけないんだろう。
早く誰かに託さなくちゃ。
私の本当の姿もいつかはバラす日がくる。
私はなにをこんなに引きずってるの?
いつかはすべて消えるのに。
私のこの偽りの姿だって。
消え失せて、
粉々に。