恋する吹奏楽部

「詠唱(ありあ)。」
「・・・。」
「目を覚まして。」

O県の式舞(しきまい)中学校吹奏楽部は強豪校。

特に目立つのはホルン二年生の上月 詠唱(うえつき ありあ)。

ホルンを吹く姿は女神のようだと言われている。
ただ、体力がなく、合奏は1日出るのが限界で、次の日にはお休みしてしまう。
たまにしか音楽室にいないので、まさにレアキャラ。
今日も合奏の途中にしんどくなり、教室に避難している。
「詠唱。」
「莉菜(りな)先輩…」
「大丈夫?無理しないでね。」
「すいません。」
しばらく間があき、
「コンクール期待してるわ、女神樣」
莉菜先輩は悲しそうに言った。
莉菜先輩は超エリートで、超超エリート学校に受験するため、コンクールには出られない。八月に入ったら毎日塾らしい。
莉菜先輩に会えるのは明日が最後。
「先輩・・・。」
先輩が私の手を強く握る。
「ホルン・・・がんばって。」
先輩の涙が私の手の甲に落ちる。
「・・・受験、頑張ってください。」
「・・・うん。」
先輩は手を離して、合奏へ戻った。
「私だって・・・。」
ホルン吹きたい。
コンクールの練習したい。
でも、でも。
「あれが見つからないの。」
いくら探したって見つかんない。
このままじゃ本当に死んじゃうよ。
死ぬまでにあと何回ホルンが吹ける?
そしてあれは今だれが持っているの?
だれが私の寿命を削っているの?


教  え  て  よ  。


私はますます気分が悪くなったため、教室で横になった。

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「莉菜先輩。」
「ん?」
私は式舞中学校吹奏楽部三年ホルンの大桑 莉菜(おおくわ りな)。
合奏に戻ったら、ちょうどお昼休憩に入っちゃった。
この子は打楽器パートの二年生、藤ヶ崎 夜(ふじがさき よる)。
詠唱と仲のいい友達らしい。
「詠唱は大丈夫ですか?」
「えぇ、少し寝込んでるけどね。」
「詠唱、最近更に体力が落ちて、しかも体も弱くなって、部活を休む日が倍になってきて・・・。」
「大丈夫。詠唱の体はたしかに驚く程弱くなってる。でもその分詠唱自信の心はたくましくなってるわ。」
夜ちゃんの顔がパァっと明るくなった。
「ありがとうございます!」
そして夜ちゃんは二年生の輪へ入っていった。
変なの。
夜ちゃんってたしか詠唱と仲がわるいはずなのに。
先輩の前ではみんな仲良くしてるオーラだしてる。
なんでいちいちそんなことするんだろう。
不思議。
夜ちゃんの顔に書いてある。
’詠唱?まじふざけんなよ(笑)めんどくせぇ(笑)’
私、人が思ってることが分かるの。
あぁ、気持ち悪い。
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