恋する吹奏楽部

「声が聞きたいよ。」
私は砂浜に横になって夜空を見上げる。
「優羅(ゆうら)樣、風が冷たくなってきておられます、早く中へ。」
「うん。」
起き上がってじいやについていく。
もう時刻は八時半を指していて、リゾート客ももうみんなホテルに入っていて砂浜は私だけのもののようになっていた。
「優羅様、明日が待ちきれないのですね。」
「うん。楽しみなの。」
「・・・・・。」
私の前に立っていたじいやが振り返る。
「楽器の方を磨いておきましょうか。」
「・・・ありがとう。でも自分でやるね。」
「かしこまりました。」
「ついに会えるのね。」
私は顔をあげた。
と、同時にじいやが言う。
「左様で。椿原優羅様。」
そう。
私は椿原家の御嬢様、蘭舞中学校吹奏楽部2年トランペットの椿原優歌の生き別れの妹。
明日産まれて初めて出逢う。



私の・・・。




お姉様。



-----

「優羅・・・・・。」
生き別れた妹、優羅に明日の合宿で遂に出逢う。
どうして生き別れたのかは知らない。
物心ついた頃には椿原家の長女の私は椿原財閥の豪邸が存在するといわれるS県ではなく、隣のM県のこのごく一般的な家に住んでいて、お母さんも普通のお母さんだった。
大人の事情なんだろうな、と思って14年間一切触れなかった。
が。
明日、優羅に会うんだ。
生き別れた妹がいるのはなぜか知っていた。
でも、会うのは昨日知らされた。
私の携帯の一件のメール。
椿原家で働く方からだった。
私たちが合宿で使う宿舎は実は椿原財閥の所有物で、妹の優羅が宿舎に蘭舞が来ると聞いて私にとても会いたがってるとのこと。


’優羅様に是非お会いいただければ、’


この文章に、そっか、あっちの妹は優羅お嬢様なんだな、って改めて感じた。
同じ家族なのに、妹なのに、どうしてこんな大きな差があるんだろう。
私は優羅にあって話がしたいからお母さんに相談せずに承諾。
明日遂に会える私の妹。
「待ってて、優羅。」
私はベッドに潜り込む。
この時の私はまだなにも知らなかった。
もちろん、妹に会うのは楽しみ。
だけど。
妹との出会いが全てを壊す。
妹との出会いで悪夢のすべてが始まる。
妹が、私にとって最大のライバルだということ。
今の妹は私たちにとって大きな壁だということ。
私と優羅のやり取りのせいで皆に大きな迷惑をかけてしまうこと。
ごめんね、私。

ごめんなさい、皆。

ごめんなさい、岡重先生。

ごめんなさい、

私たちに、

_____勝ち目はもう無いです。
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