恋する吹奏楽部

「いち、にー、さん、はいっ」
勇舞の課題曲発表会が始まった。
勇舞の課題曲はⅡ番で、明るいマーチになっている。
琴璃のトランペットのファンファーレから始まり、弦バスや、ファゴットの恋羽、絶露がリズムを刻み、えぐのスネアがその裏打ちをする。
クラリネット、フルートのろん、真衣が連符を響かせ、そこに久亜のトロンボーンが加わり、trioに入ってから詠斗のユーフォが続く。
「き、きれいだ。」
私は息を飲んだ。
同じ楽器を吹いてるはずなのに、全然音が違う。
私は三年クラリネット徳本 縷々(とくもと るる)。
憧れは岡重先生と同期の美喜とオクテットの椎名ろん君。
いつかは私もあんな風にクラリネット吹きたいな。
演奏に聞き入っていると、後ろからコツンと頭をやさしくなにかで叩かれた。
「紡。」
「縷々w口空いてるww」
「うるさいわね。」
紡がリードなどがはいったポーチで小突いてきた。
ちなみにこいつ、初恋の人ね。
今は伊達めがねを上着の胸ポケットにさしていて、綺麗な瞳に私が写っている。
カラコンしてるけどさ。
私たちの入部式の日、私は紡に一目惚れ。
最初見たときはヤンキーそのもので怖かったけど、よく見れば顔も整ってて綺麗で、肌も白いし、いけめんだった。
「こ、こんにちは。」
恐る恐る声をかけると、
「ちわっす。」
と小声で言われたのを覚えてる。
てかなんでこんなヤンキーが音楽室にいるんだろう・・・と思ってた。
でも、パートもおんなじってなんか不思議だった。
初恋が嬉しかった。
「勇舞の演奏すごいね、椎名君が目立つなー。」
「あんたの格好の方がある意味目立ってっつーの。」
「そうかな。縷々もおしゃれだけどね。」
「そりゃどーも。」
「お世辞じゃないですからー。」
「わかってますー。」
ここで勇舞のマーチが終わった。
次は私たちの番。
私たちは課題曲Ⅳ番の勇舞とは違うマーチ。
「じゃ、行こ。」
紡が立ち上がる。
紡のズボンについている鎖がジャラっと音を立てた。
こいつ、一応今もヤンキー張ってるらしいんだけど、岡重先生に惚れちゃってからなんかチャラ男って感じがするんだけど。気のせいかな。
黒いズボンが紡の足を更に長く見せつけてきて、赤と黒のシンプルだけどインパクトのあるTシャツに黒の薄手の上着を羽織っている。
授業のある平日以外の日にはピアスをいて、ちなみに髪の毛には赤のメッシュ。
服がめくれて見えたのが腰にある薔薇のタトゥー。本物ね。
いつも授業は抜けるわ、ガム噛むわでやっぱりヤンキーの癖は抜けてないけど、前より随分ましになった方。
以前は学校も抜け出してたけど、今では岡重先生がいる間は学校からは離れないし(クラスからは離れるけど)、禁止されてたけど行ってた自転車通学はいつか後ろに岡重先生を乗せたいだとかでやめて、紫のかっこいい自転車は今ピカピカに磨かれて紡に家の車庫にある(教師が二人乗りなんかしないと思うけど)。
岡重先生大好きで、何事も岡重先生のためならがんばれちゃう感じ。
だから部活も昼練も一番にくる(岡重先生に会うためだけど)。
でもってクラパートの大黒柱として未来に羽ばたく美喜や、オクテットのろんを誰よりも尊敬、そして応援し、後輩も大事にするし、何よりクラリネットを誰よりも大切にしている。
ちなみに、紡のクラリネットの名前は【カオル】。
岡重先生と同じ名前。
ま、グレてるっちゃグレてるけど、部活に関しては何事でもしっかり取り組むいい子なんだよ。
パート内だけじゃなくて、ほかのパートの子も大切にするしね。
好きな人が岡重先生じゃなかったらもっといいのに。
教師との恋愛だなんて世に言う禁断の恋じゃない。
それだけは絶対に反対。
私だけじゃなくてほかの人も絶対思ってるって。
そんな事も知らずに岡重先生と毎日、イチャイチャラブラブするんだから。
ちょっとは私の気持ちにも気付いて欲しいんだけど。
「・・・縷々?」
「え、あぁ。ごめん。」
「しっかりしろよな。」
紡が手を差し出す。
こんな優しいところ全部含めて好きだから。
紡。
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