恋する吹奏楽部
「日本一になるのは勇舞よ。たとえお姉さまがライバルだとしても、これだけは絶対に譲れないの。」
宿舎の近くの大豪邸で椿原優羅はそう心に決めていた。
優羅の姉は椿原優歌で、蘭舞の吹部、ラッパートの二年生。
妹の優羅とは別々に暮らしていて、優羅は勇舞の吹部、トランペットパートのオクテット候補、期待の一年生だ。
お互い、顔はまだ見たことないけれど、同じ楽器を吹くもの、強豪校として、ライバルとして戦わなければならない。
そして、優歌と優羅は今日、消灯の時間までに会うことになっている。
「早く会いたい。そしてお姉さまの実力を見てみたい。」
優羅が立ち上がる。
「そういえば、式舞吹部もここに来てたわよね・・・。式舞とも交流会を開いてみたらどうかしら。」
優羅が楽しそうに笑う。
「優羅様、合奏には参加なさらないのですか?」
じいやが尋ねる。
「お姉さまはきっと合奏に参加するでしょう。今会ってしまったら夜が楽しみじゃなくなるじゃない。」
「そうですか。部長の色見さんには何と申しましょうか。」
「体調不良。私たちがこの宿舎を用意してあげてるんですし、柳先生も文句はないでしょう。」
「かしこまりました。」
私がどうしてこんなにお姉さまをライバル視してるか?
別にライバル視なんかしてないの。
ただ、お姉さまの音を聞きたいだけ。
でも、それだけじゃ楽しくないじゃない?
私の音も聞いて欲しい。
そして、競って、勝って、柳先生に実力で見て欲しい。
今までは、椿原財閥の令嬢としてしか見られてなかったから。
蘭舞の、年上の、同じトランペッターに勝って、私を見て欲しい。
お姉さまにも褒めて欲しい。
「じいや。」
「はい?」
「アカウントにログインを。」
「・・・分かりました。」
自分勝手とかなんとでも言えばいい。
でも、皆ちょっと位わかってくれてもいいじゃない。
生まれて初めて逢うんだから。
たったひとりの家族に。
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「へぇー、夕璃が私に相談なんてうれしー、初めてじゃーん。」
「えへへ、その話、あ、あとでいいかな、楽器運びがあって・・・。」
自分が言いだしっぺだけど、ちょっと、ね。
メグがヤンデレだということを思い出しちゃって・・・。
撤退。
「きゃああああ」
!?
「な、なに!?」
「わかんない・・・見に行こう。」
「うん。」
突然階段の方から誰かの叫び声と大きな音。
私は楽器をその場に置き、メグと現場に向かった。
「どうしたのっ!?」
「夕璃!大変!!チャイムと夢雨が!」
「夢雨・・・・!?」
そこには聖良と、壁に倒れ掛かったチャイムと壁とチャイムの間に挟まれている夢雨の姿が。
「夢雨!待って!今どけるから!!」
聖良とメグと私でチャイムを立て直し、夢雨を抱き上げる。
「どうしたの!ねぇ、夢雨!?」
「あ、ご、ごめん、夕璃。」
夢雨が必死に謝るが、足首に痛みを感じてるっぽい。
「俺と夢雨でチャイムあげようとしたら、チャイムが夢雨の方に倒れ掛かっちゃって。その、俺の力が弱かったから・・・。謝るのは俺。ごめん、夢雨。大丈夫か?」
聖良が事情を話す。
別に聖良や、夢雨が悪いわけじゃない。
夢雨が心配。
手に怪我なんかされたらコンクールにも出れないじゃない!
「あ、ありがとう、夕璃。大丈夫。足ひねっただけだから。やさしいな。」
夢雨の笑顔にまだドキドキする。
優しくないよ。
だって私・・・。
--------その首に触れたことがあるから。