恋する吹奏楽部

-椿原優歌視点-

今は八時四十五分。
お風呂に入り終えて、消灯まで自由時間。
トランペットを右手に、ステージを目指す。

妹と対面だ。

「え・・・。なに、これ・・・。」
優羅との待ち合わせ場所のステージに上がると、なぜか周りに観客が。
「あ、きたぞー!」
「蘭舞のトランペッターだ!!」
お客さんが私を指差して言う。
なんで?
なんでこんなに大勢の人が・・・!?
「お姉さま。」
「優羅!?」
「・・・えぇ。」
突然現れた美少女。
・・・椿原優羅。私の妹。
「会いたかったですわ・・・。」
「わ、私も。」
優羅はにっこり微笑んだ。
「優羅、この大勢の人はなに・・・?」
「あら、お姉さま情報力に欠けていらっしゃるのですね。」
優羅がこっちに向かってスマホを投げた。
その画面には・・・。
「こ、これは・・・!?」
「勇舞吹奏楽部公式アカウントですの。部員には吹部速報って呼ばれてるんですけどね。」
一番新しいツイートは・・・。
【勇舞吹部一年と蘭舞の二年のトランペッターがソロ対決。】
と書いてあり、その後には時間と場所まできっちり書かれてあった。
「あなた・・・これって先生たちが操作してるアカウントじゃないの!?」
「椿原家にはそういうのを裏操作できる人がいますのよ。」
「・・・。」
目の前には大勢の野次馬。
きっとツイートで情報を得たんだ。
「私、蘭舞二年トランペットの椿原優歌と勝負がしたいです。」
優羅が大きな声で言った瞬間、お客さんや野次馬たちがわーっと声を上げた。
「ね、勇舞の力って凄いでしょう?」
優羅が鋭い目つきでこちらを見つめてくる。
こ、こんなところで勝負だなんて・・・、公開処刑同然だ!
「お姉さま、ここではっきりさせましょう?どちらの方が実力があるのか。」
「でも・・・。」
「私、ずっとのこの日を待ってたの。お姉さまの音を聞くのが毎日毎日楽しみで、お姉さまに私の音も聞いて欲しくて。」
「じゃ、じゃあ勝負なんて!」
「いいえ、お姉さまは私の憧れ、そしてライバル。お姉さまが負けたら部活をやめていただくわ!」
「そ、そんな!」
妹と勝負なんてしたくない。
やるときはちゃんとコンクールで頑張りたい。
それに・・・負けたりなんかしたら・・・。
吹部・・・やめなきゃ・・・。
そのとき、
「優歌ー!そんなくだらないことやめなさいよー!」
「玲!?」
私の相棒、玲の声がどこかから聞こえる。
「そんな事して何になるって言うのよー!」
玲が必死になって声を上げている、でもこっちから玲の姿を確認することはできない。
優羅の方を見ると、
「お姉さま・・・、私、ずっと待ってたんですよ・・・?」
妹の寂しそうな顔・・・。
私は一体どうすればいいの?
「じゃ、かわりに僕がやるよ。」
後ろから声が聞こえた。
「かっ、河原先輩っ!?」
声の主は河原先輩。
いつの間にかステージの上に。
「千穂おおおおおおおおおおおお、勝手な行動はやめてええええええええ」
どこかで栗花落先輩の声もする。
「優羅ちゃんだっけ?僕と勝負してみない?」
「私はお姉さまとするって決めてるんです。」
優羅がほっぺたを膨らます。
「僕は優歌ちゃんの先輩だよ?優歌ちゃん上手いけど、僕だって負けてないんだから!手始めに僕とどう?」
河原先輩がにこっと微笑む。
会場が一気に沸いた。
だめ、止めなきゃ、私が口を開き、なにか言おうとした瞬間、河原先輩がこっちにウィンクした。
ラッパートの約束。先輩のウィンクは「任せて。」って意味だから頼っていいってこと。
「そうだよ、優羅。河原先輩も相当上手いよ?やってみれば?」
「お、お姉さまが言うなら・・・、受けて立ちますわ。」
さっきより一層会場が盛り上がる。
「優羅ちゃん、楽しもうね!」
「えぇ。」
「ところで内容は?」
「ソロです。曲はお好きなのをどうぞ。」
「おっけー。」
河原先輩がにやりと笑う。
河原先輩はソロコンテストで代表には選ばれなかったけど、優秀賞をもらってるんだから。
優羅がオクテット候補だろうと一年生なんかとてもかなわないよ。
「あ、優歌ちゃん。」
「は、はい?」
「僕、優羅ちゃんに負けたら吹部やめるよ。」
「ええええええええ!!!?!?」
この発言にはみんなびっくり。
「バカ千穂おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」
栗花落先輩もびっくり。
「・・・分かりました。私もそうします。私が負けたなら同じように吹部をやめましょう。」
そ・・・そんなぁ・・・。
私のせいで物事がどんどん大きくなっていく。
ど、どうしよう。

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