恋する吹奏楽部
レ・ミゼラブル

勝負結果は予想通りだった。
河原先輩の圧勝だった。
新人の一年生とベテランの三年生とじゃ勝負になんかならないよ。
まず、優羅が先にソロを吹いた。
一年生にしてはうますぎた。
音量も音程も、私より上だった。
でも、河原先輩はその上だった。
河原先輩は音量、音程、それに加えて表現、表情も優羅とは比べ物にならなかった。
河原先輩がソロを吹き終わったあとの観客の反応はとてつもなかった。
そして優羅も河原先輩の演奏に絶句。
優羅が
「負けました。」
と言い放った。
河原先輩の笑顔に皆の興奮状態がマックスに。
この騒ぎを聞きつけて、ついには顧問の先生が。
河原先輩と私は岡重先生に回収され、優羅も同じように柳先生に回収。
多くの観客や、部員は加谷先生や美蓮先生によって強制解散をさせられて、海の家のステージは三分あまりで元の静けさを取り戻した。
「優歌、河原。」
「はい。」
「・・・はい。」
岡重先生に呼び出され、消灯前にお説教タイム。
「お前らwww後輩に喧嘩売られてやがんのwwwwwwww」
・・・ふぉえ?
「面白いな、お前らwいくら強豪校といっても後輩に舐められちゃったらだめじゃんかwww」
「えへへ、でも、僕、だいぶ上手くなりましたよねー!」
「うんうん。河原すげぇ、上手くなったなー。」
「でもまだまだ、先輩や同期にはかないませんね。」
「いやぁ、まぁ、河原も結構すごいぞ?あ、奈緒ちゃんはたしかに凄いかな。それに、ほら、伝説のオクテットがいた時代のここの三年生覚えてるか?お前らが一年生の時の。」
「もちろんですよ!」
「伝説のオクテット相手によく頑張ったよな。お前も頑張れよ。」
「はい!」
「優歌も。二年生は二人しかいないんだからな。」
「は、はい!」
「んじゃ、ま、おやすみ~。」
「じゃ、優歌ちゃん、おやすみー。」
「お、おやすみなさいっ」
お、怒られない・・・だと・・・!?
なんで!?
なんでだ!?
あんな騒ぎ起こして、たくさんの人に迷惑かけたし、その張本人私なのになぜこんなにも綺麗にスルーなの!?
むしろ河原先輩褒められてましたけど!?
わ、わからない・・・。
あの先生・・・本当にわかんない・・・。
美蓮先生でさえ軽く注意するはずなのに、岡重先生、注意もしないじゃない・・・。
一体どういうこと!?
河原先輩もなんかいつもどおりほのぼのしてたし・・・。
・・・ま、いっか。
寝よ。

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「優歌!」
「玲!」
部屋に帰ってくるなり、玲が飛んできた。
「優歌、あれどういうこと!?」
「えへへ・・・ちょっといろいろあって・・・。」
「誤魔化しちゃだめ。」
「・・・。」
玲だけではなく、華憐や流奈。隣の部屋のフルートの春菜と三宅 あすな(みやけ あすな)、弦バスの姫埜と、バスクラの宮秋 胡桃(みやあき くるみ)まで来ていた。
「あの勇舞の一年生・・・椿原とか言ってたよね?」
鈍感そうにみえて実はなんでもお見通しのあすなが私に視線を向ける。
「・・・あの子、実は私の妹なの。」
「「えええええ!?」」
「物心着いた頃から別々に暮らしてるから、さっき生まれて初めて会ったばっかりなの。」
「なんで、別々に暮らしてるの?」
優しい玲が背中をさすってくれる。
「わからない・・・。でも妹がいるっていうのはなぜかずっと知ってた。」
「お母さんやお父さんに聞いたりしないの?」
「お母さんには何度も聞こうとしたよ。昨日だって何度も。でも、なぜか聞いちゃいけないような気がしたし、「大人の事情」に私は入っちゃいけないような気がするし。お父さんはいないの。多分優羅と住んでる。」
その後私は自分が椿原財閥の娘だって事も話したし、この宿舎が椿原財閥のものだってこともすべて話した。
「そっか。優歌もいろいろ大変だったんだね。」
「大変だったのは多分優羅の方だよ。さっきちょっと話したんだけど、随分長い間、一人娘のお嬢様扱いされてたらしいし、私なんか隠し子同然だったらしいから、まだ気が楽だよ。」
「そうなんだ・・・。明日、時間あったらまた二人で話してみなよ。」
「でも、優羅はここに泊まってないみたいなの。」
「この宿舎が椿原財閥のもので、優羅ちゃんがこの宿舎に泊まってないってことは家が近くにあるんじゃない?」
「てか、優羅ちゃん家この近くって事はここ勇舞の校区なんじゃないの?だったら勇舞からすればここの宿舎にくるのって合宿っぽくないんじゃないかな。」
「それがね、ここら辺はすべて椿原財閥の所有物らしいの。優羅、どうしても強い吹奏楽部に入りたかったらしくて、勇舞にお願いして特別に、ここから離れた勇舞に通ってるんだって。」
「だよね、勇舞ってここから遠いし。校区の分けないから変だなって思った。」
「でもそれだけ勇舞に入りたかったってことは、優歌になんか特別な思いがあったんだろうね。」
「明日話すべきだね。」
「うん。そうする。皆ありがとう。」
この話は、また明日。
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