恋する吹奏楽部

生きている限り、僕は君を守り続けなくちゃいけない。
僕の産まれた意味はただひとつ、それだけだから。

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僕は式舞中学校の二年生、來栖 寿御(くるす じゅお)。
吹奏楽部男子部員です。
クラリネット吹いてます。
僕は、30年後からきた未来人です。
未来から来た理由は・・・、同期の上月詠唱を救うため。
僕と上月詠唱の関係は今のところただの同期。
部活が同じだけで、一緒にコンクールメンバーにのれて、ちょっと喋るくらい。
僕は上月詠唱の事を「上月さん」と呼ぶし、あっちも僕の事を「来栖くん」と呼ぶような、あまり親しくない状態。
その上月詠唱を救うってどういういう意味なのかって?
30年後の上月詠唱は僕にとって誰よりも大切な、「母親」なのだ。
30年後の僕は上月詠唱にとって誰よりも大切な、「一人息子」なのだ。
けれど、30年後の上月詠唱は今昏睡状態。
それは上月詠唱の力が爆発寸前だから。
彼女の力はこの音楽の世界を支配できる王者の力。
その王者の息子の僕もその血をひいてるわけで、ちょっとした力があるんだけど、まだ言えない。
そして、上月詠唱は今なぜこんな状態なのか・・・。
もしかしたら過去になにか問題が発生していたのかもしれない。
だから僕は上月詠唱の過去の記憶をたどり、彼女の人生の中で一番衝撃の強かった瞬間をさぐり、その時代にタイムスリップしているのだ。
一番脳に衝撃を受けた時代が今、僕がいる時代・・・。
上月詠唱が中学二年生の時。
たまたま僕も中学二年生だったわけで、運良くこそこそ隠れず、同じ学校の生徒として堂々と調査してるわけ。
難しいけど理解できた?
まぁ、つまりは昏睡状態の母親の過去を調査して、母親が突然倒れたわけを探ってるってわけ。
本当は学生である僕は調査に飛ばされないはずなんだけど、残念ながら僕の父親は行方不明で、これも母親の過去になにかあるんじゃないかと考えて両親の謎は自分が一番知りたいと僕自身が主張したため、自らの希望でこの時代にいる。
僕がここに来た目的は、「親の過去を知るため」なのだ。
でもやっぱり楽器のパートが違うと、なかなか話すことがなく、調査が進まない。
悩んでいたある日、顧問の先生が突然、
「コンクールメンバーのみでの合宿を行う。」
と、言い出した。
これはいい機会。
上月詠唱と話す機会ができるかもしれない。
そして、上月詠唱の今の好きな人の名前を聞き出し、父親の名前・・・「來栖」と一致すれば、もっと調査が効率よく進む。
でも運悪く、強豪校の勇舞や蘭舞と合宿日がかぶってしまい、式舞の女神である上月詠唱はどの学校の生徒や先生にも大人気で、いつも人に囲まれているため、なかなか二人きりになれないし、誘えない。
その上、上月詠唱は大変体が弱く、すぐ部屋に引きこもってしまう。
体調が悪い時に呼び出すのは可愛そうだし、突然俺が「二人で話したい」なんて言って部屋を訪れて、同じ部屋の女子たちに変な勘違いされても困る。
めっちゃ困る。
でも、こんなにヘタレすぎると全く調査が進まない・・・!
そして、勇気を出して、部屋を訪れることにした。
上月詠唱のいる部屋を確認し、その部屋のドアの前に立つ。
ついさっき、蘭舞と勇舞のトランペッター同士のバトルがあったらしく、女子がその話題で盛り上がってる声が聞こえる。
完全消灯時間まであと十五分。
てか、一人で女子の部屋の前って、俺ばかじゃねぇの。
ばかだよな。
うん、すげぇばか。
やっば、すっごい緊張する。
どきどきいうし、手汗やばいし、歯がガチガチなるし。
意を決して部屋をノックする。
出てきたのは打楽器の藤ヶ崎。
「來栖くん。どうしたの?」
同じ部屋の他の女子もこっちへ来る。
「上月さんいいかな?」
「えぇー、あんたも詠唱目当て!!?」
トランペットの安藤 木実(あんどう このみ)が口を尖らせる。
「え、夜?どうしたの?來栖くん?」
奥から目当ての上月詠唱が現れる。
「もー、これで何人目ー?ここに来る人ってみんな詠唱目当てなの!ほんと、美少女は羨ましいわー。」
「えぇ、そんな事ないよ。」
否定してるが、確かに上月詠唱は美少女だ。
背中が隠れるほどの長く、白く、まるで透明のようなクリアな、ウェーブのかかっている髪に、白く、細く、長く、美しく伸びる手足。
ちょっとタレ目がちな大きな瞳に困ったように首をかしげる仕草。
僕もこの人の息子じゃなかったら本気で惚れてたと思う。
ちなみに今昏睡状態の母もあの年にしては若々しく見えるし、自慢の母である。
本当、僕にもその血が流れているなんて考え難い。
「美男美女が揃ってるとこ悪いけど、女子の部屋を尋ねるほどの変態さんは受け付けてないんで。」
「え、ちょ、まって、安藤さんっ」
「問答無用っ、詠唱はちょっと調子悪いから今から寝るとこだったの。狼は早く部屋へおかえり。」
「お、狼っ!?」
人の事を狼呼ばわりだとは・・・こいつら・・・。
僕の生きる時代ではただのババァのくせに・・・ゴホンゴホン。
「じゃ、じゃあね、おやすみ、來栖くんっ。」
「お、おう。」
最後、上月詠唱に話しかけられ、どきっとしたあと、バタンと扉が閉められた。
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