恋する吹奏楽部

聞こえる、その音。

「私が君の音、響かせるから。」

私の頭の中でぐるぐる周り始めた記憶。
忘れてたはずの辛い過去。
懐かしい楽しかった思い出。
苦い思い出もあるけれど、なぜか温かい気持ちになる。

でも。

今の私にはなにもない。

あぁーあ。

あと何回泣けばいい?



覚えてるはず、なのに、思い出せない。
結局何も覚えてない。
誰かの優しい気持ちにも気付けなくて、思い通りにいったと思えば、せっかく積み上げてきた大きな何かが崩壊し始める。

まだ、

まだ何もわからない。

これは何?

私の手の中にあるものはなんだろう?

解ってる。

本当は解ってるよ。

でも、何もかも忘れちゃったんだ。

-----

「かっおる~♪」
「・・・どうしたの・・・?」
「これから渡り廊下で練習しよう!」
「が、楽器割れちゃうよ・・・?」
「そっかぁー、じゃあ、音楽室の隅っこ借りよう?」
「・・・うん。」
岡重薫。14歳。中二。
後輩にも先輩にも同期にも馴染めず、いつも一人で個人練。
そのおかげで常にファーストをとってるんだけど。
ある日突然、私は耳が聞こえなくなった。
クラの音が聞こえない。
しかも片方の耳だけなので、とても気持ちが悪い。
ずっと酔ってるようだ。
ついには自分のクラの音まで聞き取りにくくなり、いい音が出せなくなった。
私はコンクールメンバーを下ろされた。
かわりに入ったのは、伊東 佳奈(いとう かな)。
パート内で唯一話しかけてくれた子だった。
「・・・。」
「薫?」
「・・・何。」
「コンクールの事・・・やっぱり受け入れられない?」
「・・・まぁね。頑張ってきたの、全部消えちゃったから。」
「・・・。」
「でも、佳奈の頑張りが報われたじゃない。佳奈にとっては好都合でしょ?」
「・・・ううん。薫には失礼だけど、自分の力でメンバー入りしたわけじゃないから、正直辛い。」
「・・・楽器はさ、」
「ん?」


「_____吹けるうちに吹いておきなよ。」


私は生きる屍と化していた。
この時に生きる意味はなんだろう?
別に佳奈は下手じゃなかった。
おまけに優しくて美人。
明るくて人気者。先輩や先生からの信頼もかなり暑い。
部長候補でもあった。

吹奏楽部はコンクールだけ頑張ればいいわけじゃない。
でもそのときの私にはそんなのわかんなかった。
コンクールが命だった。
結局全国は行けず、吹部内でのみんなの仲が悪くなり、部員が急激に減り、流れに流され、挙句の果てに私も退部。
次の年には顧問が転勤。
私が卒業する頃には吹奏楽部は存在しなかった。
元部員はあのハードな練習から開放され、部活動をせず遊ぶ人が増えた。
私もその一人。
でも人と遊ぶのなんて苦手で、部活の友達も部活という共通点がなくなればもう何もなくなる。
私は引きこもりになり、ネットの世界に飛び込んで、現実逃避。
クラリネットは、無くした。
多分学校の木管庫。でも、吹奏楽部が無くなったんだから一生そこは開かずの間。
職員室に鍵を取りに行く勇気もなかった。
佳奈もグレた。
もう、

なにもかも失った。


絶望の日々。


岡重薫の過去。
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