恋する吹奏楽部
-來栖寿御視点-
みんなが食堂で朝食をとっている頃。
僕は一人で海辺を歩く。
「あぁーーーーーーー、もうっ!」
今日は朝から詠唱に話しかけると決めていた。
廊下を歩く詠唱に話しかけようとしたとき、詠唱の目の前に現れた少女、春菜によってそれは妨害されたんだけれども。
思ったよりうまくいかない調査。
「くっそぉー、」
足元の石ころを蹴飛ばした。
その石は近くの木の根元にコツンとぶつかった。
「・・・誰だっ!?」
その木の上に一人の男。
明らか僕より年上。
まさか、独り言とか聞かれてた___?
「誰って、俺のこと?」
木の上にいた男がいう。
「俺は勇舞中学校吹奏楽部三年生、赤尾絶露。ファゴット吹いてる、よろしく。お前は?」
_____!?
この人っ!
勇舞のオクテットだ!
天才ファゴット吹きの赤尾絶露!
ここに、俺の目の前に、あの天才が!!!??
てか先輩!
「こ、こんにちはっ!!!!」
「え、なに、急にどしたの。あ、もしかして蘭舞の子?合同合宿中の。」
「いいいいいいえ!式舞の二年生です!」
「あぁ、式舞。そういやたまたま合宿かぶったんだろ?名前は?」
「來栖寿御です!!!」
「寿御・・・。」
「はい!」
「・・・いい名前だね。」
赤尾先輩がにっこり微笑んだ。
「そ、そんな、赤尾先輩の方がかっこいいですよ!」
「・・・絶露が?まじで?」
「はい!」
「僕は自分の名前、好きじゃないんだよね、キラキラネームだしさ。」
「そんなことないですよ!かっこいいです!!」
「ありがとう。ところで、今何してたの?」
「え?」
「寿御がここまで歩いてくるの、ずっと見てたんだ。面白くて。」
赤尾先輩がいたずらっぽく笑う。
恥ずかしくなってくる。
「ちょっと悩み事です。」
「聞いてあげるよ?」
「え。」
「この赤尾絶露さまが悩み相談してあげてもよくってよ。」
「ま、まじっすか。」
「うん★」
「え、えっと、どうしても、話しかけたい人がいるんです。」
「ほう、」
「ていうか、大事な用があって、話しかけなくちゃいけないんです。絶対に。」
「話しかけれないんだね?」
「・・・はい。」
「ふむふむ。」
爽やかな潮風が赤尾先輩の髪を撫でる。
僕の額から汗がつぅ、と垂れた。
「早く伝えるべきだね。」
「え?」
「その人、いつか寿御にとってかけがえのない存在になるはずだから。」
「かけがえのない?」
「まぁ、もうすでに寿御にとって大切な人かもしれないけど。」
赤尾先輩が淡々と語る。
「早く伝えるんだ。後悔しないうちにね。」
「は、はい!」
「いつか、」
「?」
「いつか俺はまた君に会う。」
「えっ、」
「彼女は君にとっても俺にとっても大切な存在だから。」
「え、ちょ、赤尾せんぱいっ、!?」
「俺は、」
「・・・!」
「俺は、君のお父さんだ。」
「えっ、」
風がやんだ。
赤尾先輩がいつの間にか木から降りて、僕の肩をがっちり掴んでいる。
「え、そんな、ちょっと、まってください、」
「これだけ伝えておく、今から三十年後、俺と上月詠唱は結婚して、一人の子供を授かる。その子供、それが、君だよ、寿御。」