恋する吹奏楽部
-赤尾絶露視点-
俺は未来を見ることができる。
見る、というか見える。
簡単に言えば正夢。
寝てる時に見える夢、それはすべて正夢ってわけ。
毎日見るわけでもないし、明日の事がわかるわけではない。
合宿の前日に見た夢、、、幸せな夢だった。
俺と式舞の女神、上月詠唱が結婚して、子供を授かった夢。
でも、子供の名字がなぜか赤尾でも上月でもなかった。
【來栖】だった。
そしてそれは俺の母親の旧姓なのだ。
つまり、
俺が結婚するまでに俺の母さんと父さんは離婚する。
俺はもうすぐ父さんとお別れだ。
夢は幸せなだけではなかった。
不幸なところまで映し出してしまう。
挙句に、詠唱も昏睡状態に陥り、俺も子供の元、來栖寿御の元を離れ、寿御は一人になる。
そして、孤独なまま、俺と詠唱を探しに過去のこの世界にくるんだ。
可哀想すぎるだろ。
一人なんだ。
じゃあ、俺が早く寿御を見つけて助けてやろう。
そう決めたんだ。
「寿御、俺はな、未来を見ることが出来るんだ。」
「未来?」
「そう。正夢って言うんだけどな、」
「初めまして。
俺が、君のお父さんだよ。」
寿御はすごく驚いた顔をした。
そして、すぐに泣き出した。
「は、はじめまして。
お父さん。」
違う。俺は自分の子供を泣かせたいわけじゃない。
「泣くなよ、そんなに苦しかったのか。」
寿御は首を横に振り、答えた。
「お父さんに会えて、嬉しい、から、」
寿御がにかっと笑った。
「寿御、、、」
俺が見てない間、こんな青年に成長していたんだ、うれしい。
涙が溢れる。
「お父さん、どうして泣くの。」
「…寿御。」
「え。」
「コンクール頑張ろうな。」
コンクールの結果の夢はまだ見てない。
君と、
戦いたい。
-來栖寿御視点-
赤尾先輩は静かに話す。
「仮にもこの世界では先輩後輩。敵同士。お互い頑張ろう。」
「は、はい!」
「あ、赤尾先輩!」
「うん?」
「僕のいた世界でのお母さん、上月詠唱は今昏睡状態なんです。僕のいた世界での赤尾先輩はどこに行ったんですか?」
「わからない。」
「え、でも、僕の事知ってるですよね!?」
「知ってる。詠唱の事も知ってる。夢で見た。でも、自分が何故寿御のいた世界で、突然姿を消したのか…それはわからないんだ。」
「そ、そんな、」
「最後の謎はお前自身で解き明かせ、それが最善策だ、」
「僕自身…?でも、どうやって?」
「それが俺にもわからない。でも、早く元の世界に戻らなければ……」
「なければ…?」
「上月詠唱はもう二度と目を覚まさないかもな。」
「え!?」
「恐らくな。考えてみろ、詠唱は音楽の世界を支配出来る、自分でも抑えきれない程の莫大な力を持っているわけだ。現に、抑えきれずに昏睡状態なんだろ?じゃあ、それを制御出来る力を持っているのがお前、息子の寿御なわけだ。つまりお前は詠唱以上の大きな力を持っている。思い出せ、三十年後にいた頃を。」
何でだ。
なんで赤尾先輩、僕のお父さんはここまでわかるんだ、全部お見通しなのか?
これも全部夢で見たのか?
僕は、
過去にいく代償に、
元の世界に戻れないという可能性を授かった。
「赤尾先輩、僕、どうしてもお母さんを助けたいんです。どうすればいいのか、もうわかんないです。」
赤尾先輩は静かに答えた。
「今の俺には寿御の気持ちは理解できない。」
「え!?どうしてっ、お母さんは赤尾先輩にとってかけがえのない存在でしょう!?」
「言っておくが、今の俺は詠唱の事は別に好きじゃないんだ。今の俺は闇野が好きだから。」
「や、みの?って、あのオクテットの闇野先輩ですか!?」
「まぁね、」
「今のところ、俺、上月詠唱とは無関係だしね。俺にわからなくてもしょうがない。」
僕にはわからない。
赤尾先輩、僕のお父さんが姿を消した事が。
赤尾先輩に会えたから、全ての謎が解けるかと思った。
でも、やっぱり実際そんな簡単にいかないんだ。
赤尾先輩がわからないんじゃ、もう行き止まりだ。
どこをどうやって調査すればいいんだ。
上月詠唱がこの時代の出来事に1番強い刺激を受けたってなってたから調査に来たのに、その出来事を____春菜に解決されて、幕をおろしちゃったし。
「赤尾先輩、僕、未来に帰ります。」
「…もう戻っちゃうのか?」
「はい。」
「ま、コンクールくらいでとけよ、勝負したいじゃん。」
「はい、コンクール終わったら、未来に戻って、お母さんの顔をもう一度よく見てみます。そして、二人でお父さんの帰りを待つんです。」
「そうか、」
「お母さんを一人にさせちゃダメですよね、」
「…………そうだな、なんで未来の俺は詠唱を一人にさせたんだろうな。」
「……お父さんのいなかった分、僕がそばにいてあげるんです。お父さんが帰って来ても、帰ってこなくても。」
少年は悲しそうな顔をした。