恋する吹奏楽部

-來栖寿御視点-

そろそろ自由行動の時間が終わる。
来週頃に適当に理由付けて未来へ帰ろう。
赤尾先輩がポツリと呟く。
「ほんと、憎いよな。」
「何がですか?」
「未来の俺。何で消えたんだろう。」
「だ、大丈夫ですよ!いつか必ず帰ってきますよ!!」
「俺なら絶対そんなことしないのに、未来の俺は一体何を考えてるんだ。」
赤尾先輩がイライラしているように見える。
「ほんと、ごめんな。」
赤尾先輩が僕の頭を撫でようとした瞬間。
何かの殺気を感じた。

………!?


「赤尾先輩危ない!!」
「えっ?」

ドンッ


!?

誰かが赤尾先輩を狙って撃った。
でも、僕も赤尾先輩も無傷。


でも?


「あ、あなた誰ですか!?」
僕と赤尾先輩をかばっている男の人がそこにいた。
その男の人は、、、


「お、お父さん?」

見覚えのある赤い髪。
身長が高くて指が長い、この季節には暑苦しいダッフルコート。
なんでかわからないけど、この人は、僕のお父さんだ。
つまり、今いる赤尾先輩の三十年後の姿。
「久しぶりだな、寿御。」
今の赤尾先輩に比べてもう少し低い声。
「うそ、三十年後の俺、、?」
「そうだぜ、懐かしいな。」
どうしてここにいるのか、何をしに来たのか、今までどこにいたのか、、、聞きたいことはたくさんある。
でも、

お父さんは脇腹から血を流している。

「え、だ、大丈夫ですか!?」
「大丈夫、擦り傷だ、こういうのは慣れてる。」
「な、慣れてるって、、、」
「職業は刑事だ。今すぐ事情を説明するから避難しよう、急げ。」

-----

「お父さん、、、」
「ははは、ごめんごめん、事情説明するな。」
お父さんの荷物の中から包帯を取り出し、赤尾先輩と一緒に巻く。
「お前らをねらったのは、上月詠唱の弟の聖神(まりあ)だ。」
「えっ!?」
聖神は僕の学校の式舞の一年生。
そして詠唱の弟である。
「な、なんであいつが!?」
「聖神は詠唱と俺の結婚を反対していたんだ。元ライバルだからな、でもいくら弟が猛反対でも詠唱の親御さんがお願いしますって言ってるなら聖神の言うことには逆らうしか無かったんだ。詠唱に子供が出来た時も産むのには反対だったけど、授かった命は無駄にしないという詠唱の言うことには反対はできなかった。」
「それって僕ですか?」
「そうだ。」
「その、上月の弟はなんでそこまで寿御が産まれるのを反対したんだ?」
「知ってるだろ、詠唱の支配力を、その恐ろしさを一番理解しているのは聖神だからな、実際寿御は詠唱の支配力を支配できる大きな力を持ってるだろ?それが怖かったんだ。」
「そうか、恐怖が2倍にもなるのは避けたかったんだな。」
「そう。でも詠唱から産まれる子供が必ず大きな力を持ってるとは限らないだろ?だから結婚ほどは反対しなかった。」
「それから、実際産まれた寿御がヤバイやつだったんだな。」
「さすがオクテットの俺。わかってんじゃん。」
お父さんがにかっと笑う。
「それから聖神は、寿御が産まれたのは俺のせいだと言い出して過去の俺を殺しに三十年前、つまりここに来たんだ。」
「過去の俺?つまり、、、俺!?」
赤尾先輩がびっくりしている。
お父さんがゆっくり頷く。
「寿御が産まれてくるために、君の十五年間を見ることができなかった。すまない。」
どうしよう。
今までどうして僕だけこんなに孤独なんだろうと、どうして僕だけこんなに災難が訪れるんだろうと思ってた。
なのに、今は死んじゃいそうなほど幸せなんだ。
こんなに幸せな人はいないと思う。
一人じゃなかった。
ここには僕のお父さんが二人もいる。
どっちも僕に会えることを望んでて、どっちも僕を愛してくれてた。
「赤尾先輩、お父さん、ありがとう。僕はトッテモ、、、シアワセ。」

世界で一番。
< 77 / 101 >

この作品をシェア

pagetop