恋する吹奏楽部


「歴史を変えよう、勇美。」


歴史を、、、変える?


わ、わけわかんない。

部活からの帰り道。
明日はコンクールであたりはもう暗くなり始めていた。

私は倉科 勇美(くらしな ゆうみ)。
三年生、フルートです。
こんな変なこと言い出す子は、
東久邇 ゆかり(ひがしくに ゆかり)。

「これで、歴史はかえられるんだよ。」

いつも考えてることは謎だし、突然変なことを言い出す。
いつも長袖のシャツだし、変な子。

「あのね、」

ゆかりはぽつりと話し出した。


「私はね、少し特殊な人間なんだ。あ、悪い意味でね。勇美とはちょっと作りが違うの。」

「うーん、ごめん、ただの中二病にしか見えないんだけど。」

「そうなの?じゃ、これを見て。」

ゆかりが腕まくりをした。

「っ!!?」

「どう?もっとよく見てよ。」

「ゆかり、あ、あなた、もしかして、ぎ、義手なの、、、?」

ゆかりがにやりと笑った。

「ゆかり!それで大丈夫なの??ホルン吹けるの??ねぇ!」

「だーいじょーぶだって!私小学生のときから義手なんだよ?まぁ、誰にも見せたことなかったんだけど。勇美が初めてだよ?」

ゆかりは去年メンバー落ちをしていて、まぁ、私もだけど。
発表会じゃなく、コンクールのような大きな舞台で演奏をしていない。
今年はゆかりも私もコンクールに出る。

それで、ちょっと心配。

「だから歴史を変えるのよ!義手でコンクールに出た人間になるの!」

いや、今までそれでよくホルン吹けてたな、おい。

「まぁ、右手はベルん中だし、たいして不自由はないよ。」

「なんで誰にも言ってないの?」

「んー、なんか、言うタイミングを逃したってゆーか、言う必要とか、タイミングがまず無かったかな。」

この子大物になるわ。

たしかにゆかりの右手をずっと見てると左に比べて、人間味が無かった。
所々ぎこちない動きをしている。
でもよほど注意していないとわからないもの。
しかもゆかりの場合右手はホルンのベルの中にあるのであまり指先まで見ることはない。

「一応部員として聞くけど、なんでゆかりは義手なの?」

聞いた瞬間しまった、と思った。
ゆかりの顔が若干歪んだから。

「あ、別に言いたくなかったらいいんだよ?」

「ううん、別にいいよ、あれは小学2年生の時。」

ゆかりは淡々と話し出す。

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-東久邇ゆかり視点-

「お母さん、おやすみ。」

「おやすみ、ゆかり。」

「「おやすみなさい、ゆかり様。」」

東久邇家は随分昔から貴族として生活をしてきた家で今はお父さんのお母さん、つまりおばあさまとお母さんとお父さん、そして私の四人家族。
お屋敷にはメイドさんたちやお父さんの秘書さんとかも一杯暮らしている。

毎日が幸せだった。

でも、

とある日の夜のことだった。

私は一人で部屋で眠っていた。
なんか、居間の方が騒がしくて目が覚めた。
その頃私は貴族というものにあまり理解出来ず近くの公立の学校へ通っていた。
もちろん車での送迎だったけどね。
学校で時計の読み方を習った頃で、時計を見ると二時を過ぎているのがわかった。

メイドの悲鳴や秘書の怒鳴り声やら…とにかく一階の居間の方が騒がしかった。

私はわけもわからず部屋を出て階段を降り、居間を覗いた。

信じられない光景だった。

居間は血の雨だった。

見知らぬ男がカッターナイフのようなものを振りかざしていた。

メイドさんが何人か倒れていて、お父さんと秘書さんが男を必死に捕まえている。
他のメイドは部屋の隅でお母さんとおばあさまを囲むように固まっていた。

怖い。

男は凄い大柄の人でしっかりした体格の父や、背の高く力持ちな秘書さんが捕まえてもなお暴れ続けている。

男はカッターナイフを持ちながら暴れているので秘書さんの頬に一本の赤い筋が出来るのが見えた。

切れたんだ!

痛そうだ。

逃げなきゃ、助けを呼ばなきゃ、

でもまだ幼い私は涙が溢れるばかりで体がガチガチに固まって言うことを聞いてくれなかった。

そして次の瞬間。

男と目があってしまった。

一瞬だった。

男がニヤリと笑ってお父さんと秘書さんを振りほどき、こちらへ走ってきた。

そこでやっと動いた体。

でも遅かった。

逃げようとして振り返ったときに右手を掴まれた。

「やめて!」

肘から下に鈍い痛みと共にゴトンと、何かが床に落ちる音が聞こえた。

それが自分の右腕だということに気付くのには幼い私にもそう時間はかからなかった。



「ゆかり、ゆかり!」

「お、かぁさん?」

目が覚めた時、病院のベッドだった。

犯人は父の会社の部下で、東久邇家をとても嫌っていたようだった。
カッターナイフのように見えたものも実は凄く強力なナイフだったらしくて、秘書さんが切り傷だけだったのが驚くくらいだったそうだ。

「ごめんね、私があなたの腕の代わりになってあげたいわ。」

お母さんはそう言って泣いた。

その時自分の右腕がなくなっているのに気付く。



「大丈夫、私左利きだから。」

そう言って私はまた眠りについたらしい。
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「まぁ、こんなことがあって。」

「最後のゆかりのセリフにツッコミいれたいわすごく。」

「えへへ、でもそこらへんはあんまり覚えてないかな。」

「…ゆかり、辛かったよね?きっと凄く痛かったんだよね、ごめん、ゆかりの事何も知らなくて。」

「いーよいーよいーよ、勇美が知らなくて当たり前なんだから、」

「うん。」

少し頭のおかしな親友、ゆかり。
親友のことを知ることはとても大切。
いつかまた二人でお互いの事を話し合いたい。

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