恋する吹奏楽部

関東を突破し、全国にいけるのはたった三校。

その三校の中に蘭舞は無事に入れた。
そして女神がいる式舞も。
残る一校は確実に勇舞だ。
でも、名前が呼ばれたのは、

「N県、龍舞中学校---。」
「「キャアアアアア」」





え?






時が止まった。





「な、んで・・・?」
どうして。
私たちも十分の演奏が出来たはず。
なのに。
「うわああああああああああああああああ」
哀しみが溢れ出てくる。
私たちが今まで作ってきたのはなに?
私、全国に行くために・・・。
私たち、全国に行くために・・・。
頑張ってきたのに。
「泣かないで久亜っ!」
そう言って私の手を握る真衣ちゃんも涙で顔がぐしゃぐしゃになっている。
「久亜が泣いたら・・・部長泣いたら、私たち・・・どうすればっ、」
「久亜。」
隣に座っていたえーとが私を思い切り抱きしめる。
「久亜。哀しみに泣くのは弱いものがするものだ。」
「うっ、え、えーと、えーとだって、泣いてるじゃんっ、」
私たちがこんなにボロボロ涙を流して、顔をぐしゃぐしゃにしてるのに、えーとは声一つ上げず、和風で切れ長の瞳からきらりと光る一筋の涙を静かに流している。
「哀しみではない。久亜や皆と、オクテットと、ここまで一緒に頑張って来れたのが嬉しい。結果なんてどうでもいい。俺は久亜の悲しい顔が見たくないだけさ。」
えーとはそう言って私の瞳にキスした。
今回の結果にあのことりんも大泣きするし、赤尾やろんろんも抱き合ってたし、蘭舞のトロンボーンの若葉ちゃんが来てくれて、
「一緒に全国行きたかった。」
って言って泣きながら抱きしめてくれて、握手もした。
「若葉ちゃん、全国がんばってねっ、」
「うんっ、あ、ありがとっ、」
「悔いの残らないような、良い、演奏、してきてっ、」
「うんっ、久亜ちゃんの分も、がんばるっ、」
最後はお互い見合って


「「トロンボーン最高っ!」」


と言って別れた。

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「あーあ、なんか、せっかく全国行けるのに、なんか・・・ねぇ?」
「うん・・・。なんだか私たちのせいでオクテットがなんか悲しそうにしてる・・・。」
「全国にいける喜びより龍舞が入って勇舞が入れなかったショックがつよいね。」
「私、オクテットと戦うの楽しみにしてた・・・。」
「私は女神かな。正直、私は蘭舞の演奏より勇舞の方が好きだったかな。」
「うんうん。」
龍舞中学校の席に座る二人の少女。
二人の顔は鏡に映したような似たような顔つき。
少し大人びている方が三年ホルンの皆川 瀬菜(みなかわ せな)。
後者のちょっと幼い方は双子の妹、皆川 瀬羅(みなかわ せら)。
瀬羅はユーフォを吹いている。
「まっ、私は女神と戦えるならそれでいいけどー。」
「私、オクテットのえーと君と戦いたかったなぁ。」
「まぁまぁ、蘭舞と式舞のユーフォも楽しみにしておこうよ。」
「・・・そうだね。」
二人は顔を見合わせていった。
「「どうせ龍舞が頂点に立つけどね。」」
この二人が、龍舞の武器、このマジックミラーである。



全国大会がもう目の前に。

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