恋する吹奏楽部
「ちょっと、騒がしいわよ。練習は?」
全国出場が決まり、夏休みも残りわずかになり、神樂は楽団に戻ったある日のこと。
部活がお昼休みを終え、合奏がない今日は、午後は個人練習なのだが、始める時間になったのにトランペットの音が聞こえないのを心配し、準備室の片付けをすっぽかしてラッパが使っている1-6組へ来た奈緒。
そこには三年生のトランペットしかいなかったうえにざわざわと騒がしい。
「一年と二年は?」
「5組で分奏らしいよ。」
ここの学校の合奏のルールは第一音楽室をAチーム(コンクールメンバー。コンクールメンバーが発表される前は二、三年で。)
第二音楽室はBチーム(メンバー落ちの生徒と一年生。メンバーが発表される前は一年生だけ。)
今年はトランペットの三年生が多いので、二年生は二人ともBチーム。
なので、一年生と練習している。
「ところであんたら何してるの?」
「奈緒っち、これ見てよ。」
アニメオタクの美歌がある雑誌を奈緒に差し出した。
「なにこれ。」
「えー、奈緒っちなら絶対知ってると思ってた。<ぶらばん。>ってゆー、吹奏楽の雑誌。今月号は強豪校美男美女特集なの。」
「へぇー、面白いわね。」
奈緒がページをパラパラめくる。
「あ、闇野さん。」
奈緒が目を留めたのは勇舞のオクテットオンリーの特集ページだ。
(随分有名人のようね。)
1ページ目から大きく写真が貼られているトランペットの闇野。
長い黒髪を二つに縛ってこの間あった時より凄い可愛らしくうつっている。
「私は椎名くん推しだなー。」
そういって美歌はクラリネットの椎名のページをひらいた。
たしかに、性格は少し残念だけどこうして見るとそこらへんの男子に比べれば群を抜いてかっこいい。
美喜から聞いた話によると椎名は幼い時からヴァイオリンやピアノ、英会話などで英才教育を受けていたようで、千穂ほどではないが背が高く、色白で、髪もサラサラ。
ファゴットの赤尾に並ぶほどもてるらしい。
「あ、これ、噂の。」
今までなんの興味も示していなかったメグがあるページに指を指した。
「うそ、これが!」
「式舞の顧問!?」
「い、いけめん。」
「確かに、かっこいー」
「めっちゃ若くない?多分岡重先生より…」
「轟井 カケル…。」
轟井 カケル(とどろい かける)。
写真を見る限り年齢は20代前半。
茶髪に黒のメッシュ。
モデルのようにかっこいい服装。
でもけしてチャラ男には見えない。
優しそうに見えるし、尚且つ真面目に見える。
「楽器は?」
「サックスだって。ソプラノ、アルト、テナー、バリトン全部吹けるらしいよ。」
「かっけー、」
「この人がマジックミラーの師匠かぁ。」
「なんかうらやましーなー、顧問がばりばりのイケメンって!!」
「岡重先生もいいけど、うちの場合二人共女子だし、男の顧問欲しくない?」
「欲しい欲しい!」
「私は千穂一人だけでいいもん。ねぇ?千穂。」
メグが千穂の腕に自身の腕を絡めた。
そんな可愛らしいアピールも惜しく、千穂は
「確かに千穂は二人もいらないよねぇ、一人でいいよね!」
とか言ってる。
(会話通じてないじゃん。)
「もう千穂!違うの!そういう意味じゃないの><」
「えぇ~??」
二人のやりとりをみて、奈緒はすこし切なくなる。
私ももっとあんなふうに積極的になれていたら今こんな気持ちにならなくても良かったかもしれないのに。
「じゃ、準備室の掃除にもどるね。」
「奈緒っちがんばー。」
「いってらっしゃい。」
「もう練習始めとくね。」
「ばーい。」
美歌、林檎、メグ、姫子が奈緒を送り出す。
「奈緒お掃除頑張ってねぇ~。」
もちろんこいつ、千穂も。
あんたは私の気持ちなんて知ったこっちゃないんだよね。
こんなに苦しんでるのもあんたのせいなのに。
______________キミと目を合わせられない。