恋する吹奏楽部

-東夢雨視点-

「東先輩っ!」

「ん?」

「あ、あのっ、」

二年のバスクラ、宮秋 胡桃。

俺の後輩。

今日は一年生の星野 芽兎(ほしの めう)が休みで、サックスの奴らはレッスンがあり、いつもの練習部屋の、一年二組は俺と胡桃のみ。

二人で隣で曲練をしてる時突然立ち上がって俺を呼ぶ。

「なんだ?突然立ち上がったりして。楽器ぶつけるぞ。」

「え、あ、す、すいません。えっとですね、」

「?」

いつものクールな胡桃とは違う。

わたわたと、これじゃまるで、落ち着きがない一年生のころのりりーだ。

「わ、私・・・。」

「?」

「東先輩が・・・好きです・・・。」

「・・・・・え?」

だめだ、びっくりしすぎて声裏返った。

恥ずかしい。

後輩の、女子の、告白された相手のまえでマヌケな声を出してしまった。

「私っ、ずっと、東先輩が好きでっ、先輩に一目惚れしちゃってっ、この楽器始めたんです。この楽器の担当になれば、東先輩の近くに、ずっと、いれるとっ、思って・・・っ。」

「え、あ、お、おう。」

「でも、私、その、あんまり女の子らしくないし、無愛想で、芽兎ちゃんみたいに女子力があるクールな子みたいにもなれなくて、無理なのはわかってるんですけど、その、私の気持ちだけでも知ってて欲しくてっ!」

いつもクールで、ポーカーフェイスで、誰相手にも態度を変えたりしないかっこいい奴だな、って勘違いしてた。

そうだ、胡桃だって女だ。

誰かに恋して、誰かに憧れて、何かに惹かれて、何かに変わっていく、

普通の女の子。

俺の勝手な勘違いで。

【男前でクールな、頼りがいのあるやつ。】っていう変なレッテル貼っちゃって。

「クールじゃなくて、恋する可愛らしい女の子って認めておいて欲しくて、」

「そうか。」

「・・・え。」

「随分可愛いところあるじゃん。」

俺はそっぽ向きながら胡桃の頭を撫でた。

「そういう正直なところ、女子っぽいぞ。」

「せ、先輩っ・・・。」

胡桃が急に抱きついてきた。

「え、ちょ、胡桃・・・?」

「・・・付き合って欲しいんです。正直。」

「・・・。・・・胡桃。」

「わかってるんです。先輩のことが好きな人がたくさんいるってこと。私もその一人なんで。でもやっぱり人の気持ちにははっきり答えるべきですよ。先輩。」

「え?」

「島津先輩、相当参っちゃってますよ。」

「え、え、え!?」

「もー」と言って胡桃が溜息を漏らす。

「しっかりしてくださいよ、先輩。」

「いや、夕璃とは・・・もう終わったはずだから・・・。」

「せ、先輩は鈍感ですかっ!?」

「へ・・・?」

「好きな人の事、先輩は簡単に諦めちゃうんですか!?」

「いや、それと、これとじゃ、話がちがっ、」

「同じですうううううううう。そんなんだから梶間先輩と結ばれるのに時間かかりすぎたんですよ!?」

「な、なんでそれをっ」

「女の勘です!なめちゃいけませんっ!!」

お、女ってこえぇ・・・。

「島津先輩、最近病み気味なんですよ・・・。コンクールのプレッシャーもありますけど。」

「まぁな。」

今年のコンクールの結果は予想外だった。

勇舞が全国のれなかったしな。

「ちょっと、女の子を取り戻させてあげてくださいよ。」

「・・・。」

「私の返事はいいです。いつも通り接してくれれば嬉しいです。そして早く梶間先輩を独り占めしてあげないと、誰かに取られちゃいますよ。でもって島津先輩の事、ちょっとは気にしてあげてください。」

「は、はい。」

やっぱ、しっかりしてるわ、こいつ。

「ありがとう。胡桃。」

胡桃が無言で顔を赤くする。

いい後輩をもったな。


全国頑張ろう。
< 96 / 101 >

この作品をシェア

pagetop