アイノカタチ
『嘘をつけ。携帯と睨み合っていただろ』
「…」
私は呆れて二の口が出なかった。
見ていたのなら、わざわざ聞かなくてもいいだろうに。
って言うか、どこから見ていたの?
私は、何層にも連なる高層ビルを眺め見る。
確か、この人がいる場所は
最上階。
私がいる出入り口は、コメ粒位にしか見えないだろうに。
『怪訝そうな顔をしているな?
どこから見ているか、知りたいか?』
顔を顰めながら見ていたら、電話口からそう言われる。
少し楽しそうだな。
「いいえ、ご遠慮させて頂きます。
それより急用ですか?」
私は、軽くため息をつきながら断った。
どうせ、またとんでもない事を聞かされるだけに決まってるんだから。
『…
急用ではない。しかし、出勤時間まで残り15分だ。私が先刻述べた内容を理解していないのかと、確認の電話を入れた』
「…左様でございますか」
相手の声のトーンが下がるが、気にしない。
しかし、これではまるで姑から揖斐られている嫁の気分。
「それは大変失礼致しました。内容は十分理解しておりますので、次回からは、気をつけて参ります」
半分棒読みの早口言葉。
出勤時間15分前と聞いた私は、はや歩きでビルの中に入る。
流石に悠長にし 過ぎた。私とした事が失敗。
「只今急ピッチでそちらに向かいます。お話はその後、しっかり聞かせていただきますが宜しいでしょうか?」
私は、なかなか降りて来ないエレベーターに待ちきれず。隣の階段を2段飛ばしで登りながら聞いた。
『仕方がない。急げよ?』
わかりました。と告げぶっちり電話を切ると2段から3段飛ばしに変えて駆け上る。
トレーニングみたいな階段昇降。
筋肉がますます付いてキン肉マンになるじゃない。
お嫁に行けなくなったらどうするのさ。と内心愚痴りながら登っていく。
最上階は長い。流石に20数階ある階段を登るほど馬鹿じゃない。
中階付近に差し掛かると、私は最上階直通のエレベーター前に立つ。
実はこのビル。真ん中から最上階へ行くものと、行かないものに別れてる。
なんの為にそんな面倒な作りにしたのか。
いっそどちらも直通にすれば簡単で楽なのに。
金持ちの考え方はよくわからない。

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