アイノカタチ
さて、私がここに来て最初にやること。
それは社長へ朝食とコーヒーを作って出すこと。
え?って思うでしょう?
しかも、朝食だけじゃないの。
昼食や夕食まで作らなきゃならない。
そんなの家政婦雇えばいいだろうに。
はっきり言って、やりたい仕事を目指して都会に来たのに、反対のことをしている。
まぁ、そろそろ戻れと実家から催促が来ていたから、働き口が見つかった事で帰ることを逃れることが出来たのは感謝するけど。
こんな家政婦みたいな仕事についていることが、とても虚しい。
やりたい仕事に着くのは難しいとは思ってたけど。まさかね、こんな仕事が舞い込んで来るなんて、思いもしないじゃない?
世の中、どう転ぶのかわからない。なんて言うけど。
全くその通りだわ。
「まだ出来ないのか?」
「…只今お持ち致しますっ!」
なかなか出てこない事に痺れを切らしたのか、社長から催促がかかる。
慌てて出来たものから運び入れる。
「頂きます」
礼儀正しく挨拶すると、綺麗な箸使いで黙々と口の中に食事を入れていく。
いつも感想は言わないから私はフライパンなどの片付けに入る。
全く使われてなさげな感じだったキッチンは私の頼みで食器や器具なんかを揃えて貰ったからそれなりの景色になった。
秘書さんの話によれば、この会社が出来て以来初の調理者らしい。
そんなのは全くうれしくない。
「ごちそうさま、そろそろ朝礼に行ってくる。今日は10時から新規の契約が入るから、準備しておいてくれたまえ」
「はい、かしこまりました」
私は、スタスタと上着を着ながらドアに向かう社長を追いかける。
そして、ゆっくりと扉を開けると、社長を送り出す。
これが私の1日の変わった日課。仕事になる。




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