アイノカタチ
しかも、部屋に居ない時時々電話がかかって来るし。
うっかり携帯忘れて部屋の掃除なんかしたら大変。
『遅い。コールは3回鳴る前に出ろと言ったはずだが?』と超不機嫌な声で言ってくる。
正直、男の癖に細かい、なんて思ったり。
それで今朝の電話。
まったく、変に細かくて困る。
なんてブツブツ文句をつぶやきながらお昼の準備とお客様用のお菓子を揃えている時だ。
こんこん、とノックの音。
私ははい、と返事をしてドアを開く。
そこにはもう1人の秘書さん。
小松 武惟(こまつ たけい)さんが、傍らに1人のざっと見40代くらいの男性を連れて立っていた。
「蓮名様がお見えになりました。
社長がいらっしゃるまでお願いできますか?」
「はい、かしこまりました。
どうぞ、中へ」
「お邪魔いたします」
蓮名と呼ばれたお客様は、疲れたような感じでゆっくりと中に入っていく。
「では、失礼いたします」
「ご苦労様です」
お互い挨拶を済ませ、私はキッチンへ。
そして、蓮名様の座る席へお茶を持っていく。
「只今安都間は、朝礼に出向いております。しばしの間、こちらをご賞味くださりながら、お待ち下さい」
「ありがとう。
ん?これは、なんだね?
凄く甘い香りがするね」
蓮名様は、ティーカップをかざし香りを何度か嗅ぐ。
「ハーブティーです。
カモミールというお花をお茶にした飲み物です。苦手でございましたら、お取替え致します」
「いや、これで構わないよ。
なんだか気分が落ち着く」
そう言うと、啜る。
「うん、後味もすっきりしているね」
「ありがとうございます。
カモミールには、精神を落ち着かせたり、気分が落ち込んでいる時に効果がある代物になっています」
「………そうか」
蓮名様は、ゆっくりと、ハーブティーを体に染み込ませるかのように飲んでいく。
「君は、新しく入った秘書かな?」
「はい、そんなものです」
「名前は?」
「遥と申します」
「ほぅ、可愛らしい。
私の娘が生きていたら、君のような子に育っていたかもしれないね」
「……と、おっしゃいますと。
失礼ですがお子様は」
「あの子が8歳の時に、病でね。
もう。13年になるか」
「そうでしたか」
私も、静かにお茶をすする。
「娘の為にと踏ん張ったが、虚しく先立たれ。天国にいる娘に駄目な父親の姿を見せる事はできないと、更に頑張ってきたが、国が今度は課税で追い詰めてくる。
止む負えず大きな会社に養って貰わなくてはやっていけない。
こんな父を、天国で娘はきっと駄目な父親だと呆れているに違いない。
本当に、私は駄目な父親ですな
なんて、君に言ってもどうにもならんが」
泣きそうな、笑顔で笑う。
その姿に、胸が痛く苦しい。
「………大丈夫だと思いますよ?」
「え?」
「娘さんはきっと、独りで頑張りすぎるあなたを、救いたくて。
この会社に助けを求めたのではないでしょうか」
「……………」
私の言葉に、蓮名様の目が大きく開く。
「あなたがもし、本当に酷く駄目な方なら、きっと助けは無いはずです。
ですが、この厳しい業界の中救いの手が現れた。
それはきっと、あなたの頑張りを娘さんがしっかり見て、知っているからだと思います。
きっと、娘さんはあなたに、『独りでなやまないで』『みんなが、父さんの力になるよ』と伝えたいのではないでしょうか」
「………っ、」
「蓮名様
あなたの頑張りは、しっかり届いてます。
どうか、自信をもって、これからも『家族』の皆さんの力になってあげてください。あなたは、独りではありませんから」
「ありがとう」
涙を流しながら、蓮名様は何度もありがとうをくり返す。
私は、静かにその様子を見守る。
社長が来るまで。
うっかり携帯忘れて部屋の掃除なんかしたら大変。
『遅い。コールは3回鳴る前に出ろと言ったはずだが?』と超不機嫌な声で言ってくる。
正直、男の癖に細かい、なんて思ったり。
それで今朝の電話。
まったく、変に細かくて困る。
なんてブツブツ文句をつぶやきながらお昼の準備とお客様用のお菓子を揃えている時だ。
こんこん、とノックの音。
私ははい、と返事をしてドアを開く。
そこにはもう1人の秘書さん。
小松 武惟(こまつ たけい)さんが、傍らに1人のざっと見40代くらいの男性を連れて立っていた。
「蓮名様がお見えになりました。
社長がいらっしゃるまでお願いできますか?」
「はい、かしこまりました。
どうぞ、中へ」
「お邪魔いたします」
蓮名と呼ばれたお客様は、疲れたような感じでゆっくりと中に入っていく。
「では、失礼いたします」
「ご苦労様です」
お互い挨拶を済ませ、私はキッチンへ。
そして、蓮名様の座る席へお茶を持っていく。
「只今安都間は、朝礼に出向いております。しばしの間、こちらをご賞味くださりながら、お待ち下さい」
「ありがとう。
ん?これは、なんだね?
凄く甘い香りがするね」
蓮名様は、ティーカップをかざし香りを何度か嗅ぐ。
「ハーブティーです。
カモミールというお花をお茶にした飲み物です。苦手でございましたら、お取替え致します」
「いや、これで構わないよ。
なんだか気分が落ち着く」
そう言うと、啜る。
「うん、後味もすっきりしているね」
「ありがとうございます。
カモミールには、精神を落ち着かせたり、気分が落ち込んでいる時に効果がある代物になっています」
「………そうか」
蓮名様は、ゆっくりと、ハーブティーを体に染み込ませるかのように飲んでいく。
「君は、新しく入った秘書かな?」
「はい、そんなものです」
「名前は?」
「遥と申します」
「ほぅ、可愛らしい。
私の娘が生きていたら、君のような子に育っていたかもしれないね」
「……と、おっしゃいますと。
失礼ですがお子様は」
「あの子が8歳の時に、病でね。
もう。13年になるか」
「そうでしたか」
私も、静かにお茶をすする。
「娘の為にと踏ん張ったが、虚しく先立たれ。天国にいる娘に駄目な父親の姿を見せる事はできないと、更に頑張ってきたが、国が今度は課税で追い詰めてくる。
止む負えず大きな会社に養って貰わなくてはやっていけない。
こんな父を、天国で娘はきっと駄目な父親だと呆れているに違いない。
本当に、私は駄目な父親ですな
なんて、君に言ってもどうにもならんが」
泣きそうな、笑顔で笑う。
その姿に、胸が痛く苦しい。
「………大丈夫だと思いますよ?」
「え?」
「娘さんはきっと、独りで頑張りすぎるあなたを、救いたくて。
この会社に助けを求めたのではないでしょうか」
「……………」
私の言葉に、蓮名様の目が大きく開く。
「あなたがもし、本当に酷く駄目な方なら、きっと助けは無いはずです。
ですが、この厳しい業界の中救いの手が現れた。
それはきっと、あなたの頑張りを娘さんがしっかり見て、知っているからだと思います。
きっと、娘さんはあなたに、『独りでなやまないで』『みんなが、父さんの力になるよ』と伝えたいのではないでしょうか」
「………っ、」
「蓮名様
あなたの頑張りは、しっかり届いてます。
どうか、自信をもって、これからも『家族』の皆さんの力になってあげてください。あなたは、独りではありませんから」
「ありがとう」
涙を流しながら、蓮名様は何度もありがとうをくり返す。
私は、静かにその様子を見守る。
社長が来るまで。