腹黒王子と意地っぱりガールの場合。
「もっとこう、他に……」

「ダメ」

「ジュース買ってくるとか」

「ダーメ」

「………」



助けを求めてちらりと隼人を見てみるも、あくびをしたりなんかして全然気にする様子がない。

何なのコイツ。しばいたろか。



「あ、でも校内全部ってのはさすがにかわいそうだから、この4階と3階と2階だけでいいよ」



まるで聖人君子のごとく微笑みを浮かべて、松井くんがそんなことを言うけれど。

……かわいそう、って言いつつ、しっかりホームルーム教室のある階だし……。

イコール、人が多いんだよー!!



「……でも、お昼休み終わっちゃわない?」

「あ、その心配はないみたいだぜ」



そう言ったヒデが「ほら」と指差す黒板を見てみると、【5限の数学は自習!】の文字。



「マジですか……」



クラス内の他の生徒たちはよろこんでるけど、今のあたしにとってはテンションを下げる原因でしかない。

がっくりうなだれて、ぐしゃぐしゃとトランプをかき回していると。



「……はぁ」



今まで黙っていた隼人がため息を吐いて、椅子から腰をあげた。

そしてその様子を見ていたあたしの手をとって、同じように立ち上がらせる。



「え、な、」

「面倒くせーから、さっさと終わらせてこようぜ」



そう言って隼人は、あたしの手を引いてスタスタ歩き出す。



「へ、ちょ……っ」

「いってらっしゃ~い。ちなみに監視としてヒデが後をつけるから」

「えっ、俺??!」



のん気な松井くんの声と、慌てたようなヒデの声を背中に聞きながら。

あたしたちは、教室を出た──。
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