腹黒王子と意地っぱりガールの場合。
そして、冒頭に至る。


うぅ……落ち着かない。

何がって、すれちがう人たちの視線とか数メートル後ろにいるヒデの視線とかつないだ手、とか。

今のあたしは、絶対に顔が赤いと思う。

だって今まで彼氏がいたことなんてないから、こんなの免疫がない。

……まあ、となりのこの男はそういうことに対して経験値が多そうですけど。


そう考えて、再びちらりと右どなりをうかがってみると。

ちょうど隼人もこちらを見ていて、思わず身構えた。

どくんと、心臓が大きくはねる。



「な、に」

「──あかり」



隼人は呟くように名前を呼んでから、あたしの耳元にくちびるを寄せてささやいた。



「後ろにいんの、誰?」

「あ。え、と、ヒデ……」



なに、これ。

なんでこんなに、心臓の音がうるさいの?


あたしの気も知らず、隼人は「そっか」と小さく呟くと、さっきよりも手をつなぐ力を強くした。



「ヒデなら、撒けるかな……? ──走るぞ」

「えっ、わ……!」

「はっ?! おい……っ!!」



現在地は、4階北階段の手前。

後ろから、ヒデの声がしたような気がしたけれど……急に走り出した隼人に手を引かれて階段まで走り、そしてそのスピードのまま、一気に駆けあがった。
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