腹黒王子と意地っぱりガールの場合。
「はぁっ、はぁ……っ」

「なんとか撒けたな」



6階にある、屋上へと続く階段の前。

あれだけ走っても息切れすることなく、廊下に目を向けたまま隼人は呟いた。

なんとなく悔しくて、息を整えながら隼人を見上げて軽く睨む。



「って、ゆうか……っ、はぁ、なんで急に、走って……」

「だって3つの階をまわるとか、面倒くせーじゃん」

「あっそ……」



ふー、となんとか落ち着いたあたしは、つながったままの右手に気付く。

再び隼人を見上げるが、「何?」と訊かれて、なんとなく何も言えず「別に」と返した。

すると隼人は、おもむろに目の前の階段をのぼり始めた。

手をつないだままなので、あたしも自然にそれに従うかたちになる。



「え、屋上って、立ち入り禁止のはずじゃ……」



あたしの問いにはこたえず扉の前まで来ると、隼人はスラックスのポケットに手を突っ込む。



「じゃーん」



そして訝しがるあたしの目の前に、銀色の鍵を見せつけた。

鈍く光るそれに、あたしは思わず眉を寄せる。



「……アンタまさか……」

「権力は、使うためにあるんだぜ」



にやりと笑って、鍵穴にそれを差し込む。

そんな腐った生徒会書記様に、あたしはため息しか出なくて。

1歩後ろから、扉を開ける背中を呆れ顔で見ていた。
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