ニ択(偏食者)
幾多と女は、廃墟になっていたマンションから出た。
すると、一台の車が迎えに来た。
運転手は降りると、頭を下げた。彼は、幾多とともに取調室に行った白髭の男だった。
「こんな話を知っているかい?」
運転席に乗り込んだ女に、後部席に座った幾多は話し出した。
「ジョン・コルトレーンというサックス奏者がいた。彼のサウンドは、後のハードロックのギターリストに影響に与えた、ブラックヒーローだった。晩年、彼は世界平和の為に、世界各地で演奏を続けた」
車は、発車した。
「しかし、どんなに演奏しても、世界は平和にならない。病に犯されながらも、彼は演奏を続けた。そんな時、彼の心の師匠とも言うべき、インドのミュージシャンにこう言われた。君の演奏からは何も感じないと」
車は市街地に入っていく。
「彼は、師匠に再び会うために、演奏を続けながらインドを目指した。しかし、彼は…たどり着くことなく、死んでしまう」
死ぬ間際の日本の演奏は、残されている。一曲…一時間以上。鬼気迫る彼の音を聴くことができる。
「俺も同じかもしれない。どんなに、俺が活動しても、世界は変わらない。そして、いずれ…俺も死ぬ」
幾多は、自らの手のひらを見つめ、
「だが、俺は迷わない。例え、正流が…お前のやっていることは所詮、人殺しだと言われても、俺は迷わない。何故なら、それは事実だから。だけど」
幾多は前を見た。
「それをやめない。それが、俺の選択した先だからだ」
「…」
幾多の言葉に、女は何も答えなかったが、自然と微笑んでいた。
遠くで、サイレンが聞こえてきた。
車が曲がると、サイレンが後ろを通り過ぎていくのが、フロントガラスに映った。
「またな…正流」
幾多は、目を瞑った。
end
すると、一台の車が迎えに来た。
運転手は降りると、頭を下げた。彼は、幾多とともに取調室に行った白髭の男だった。
「こんな話を知っているかい?」
運転席に乗り込んだ女に、後部席に座った幾多は話し出した。
「ジョン・コルトレーンというサックス奏者がいた。彼のサウンドは、後のハードロックのギターリストに影響に与えた、ブラックヒーローだった。晩年、彼は世界平和の為に、世界各地で演奏を続けた」
車は、発車した。
「しかし、どんなに演奏しても、世界は平和にならない。病に犯されながらも、彼は演奏を続けた。そんな時、彼の心の師匠とも言うべき、インドのミュージシャンにこう言われた。君の演奏からは何も感じないと」
車は市街地に入っていく。
「彼は、師匠に再び会うために、演奏を続けながらインドを目指した。しかし、彼は…たどり着くことなく、死んでしまう」
死ぬ間際の日本の演奏は、残されている。一曲…一時間以上。鬼気迫る彼の音を聴くことができる。
「俺も同じかもしれない。どんなに、俺が活動しても、世界は変わらない。そして、いずれ…俺も死ぬ」
幾多は、自らの手のひらを見つめ、
「だが、俺は迷わない。例え、正流が…お前のやっていることは所詮、人殺しだと言われても、俺は迷わない。何故なら、それは事実だから。だけど」
幾多は前を見た。
「それをやめない。それが、俺の選択した先だからだ」
「…」
幾多の言葉に、女は何も答えなかったが、自然と微笑んでいた。
遠くで、サイレンが聞こえてきた。
車が曲がると、サイレンが後ろを通り過ぎていくのが、フロントガラスに映った。
「またな…正流」
幾多は、目を瞑った。
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