塩味の恋
「実は俺もさ、家、帰りたくないんだよね。」
全部話すのに、そんなに時間はかからなかった。
手は、繋いだままだった。
「えっ、…」
日向は、明るくて、女の子にも男の子にも人気で、勉強も運動もできて、
そんな完璧な男の子で、悩みなんかないんだろうなって、勝手に思ってた。
知り合って、まだ、3か月ちょっとしか経ってない。
けど、なんか、知ってるつもりだった。
「んー、結衣ん家みたいに複雑じゃないんだけどね。
両親は仕事忙しくてあんま帰ってこないし。」
日向の手に、軽く力が入る。
「結衣のこと、全部わかってあげられるわけじゃないけどさ、話は聞けるから、だからさ、…」
「ありがと、日向。」
やっぱり、日向、大好き。
それから少し、いつもみたいななんでもない会話をした。
お祭り以外にも、どっか遊びに行こうって約束をした。
夏休み、みんなに会える時間へっちゃって嫌だなあって思ってたけど、ちょっと、楽しみになった。
そして帰りは、日向に家の前まで送ってもらった。
いつもより、足は重たくなかった。
「じゃあ、また。」
「うん、ありがと、またね。」
手を振って、家の中に入る。
今日、ほんとに、日向と一緒にいられてよかった。