三種の神器‐戸嘴美園(こはし みその)の場合

2‐現実を間のあたりにして……。

「千菊さん今日は私出かける用事があるからこの子をお願いね。あっ、紫苑さん……」
  と貴文の母親は紫苑に気づくと慌てて踵(きびす)を返した。

 


  ちなみにその時紫苑は孫である千菊の子供を抱いている貴文の母親を見て、絶望の淵(ふし)に突き落とされた思いがした。尚、本妻である自分の立場を気づかう事もせずに愛人に生ませた子供を平然と預かり、可愛がっているいわば理不尽このうえない姑のその行動は、今まさに傷つき打ちひしがれている紫苑の心に追い討ちをかけ決定的な打撃を与えた。

< 103 / 179 >

この作品をシェア

pagetop