三種の神器‐戸嘴美園(こはし みその)の場合
  私みたいに金髪のカツラを被ってドハデなお化粧をしてミニスカートを穿く感じでも良いの。要するに今までの自分とは違う他の誰かになってみる事で、自然と勇気が湧いてきて何事にも積極的になれるのよ。実際に私はそうする事で今まで学校でいじめにあい登校する気力と勇気が失せて部屋の中にひきこもっていた子達が、コスプレを体験する事でそのいじめ相手ときちんと向き合い、反論が出来るようになった子達を沢山見届けてきたわ」
  と心音はしんみりと話してくれた。




「とっても良いお話ですね」
  と言うと美園の目が少し潤んだ。




「母さんごめんな。俺今まで実の父親が教師だったって事をすっかり忘れてた。でもって父さんが白血病で死ぬ前に、母さんと父さんがどんな話し合いをして、そして母さんがその父さんがしてきた事をどんな思いで、引き継いできたのかと言う事をこの俺は全く知ろうともしなかった。今思えばそれは俺の人生にとって最大の落ち度だった気がする。ホントこの歳まで俺はなんてノーテンキに生きてきてしまったんだろうなって、今更だけど反省してるよ」
  と楓駕(ふうが)はいつになく神妙な面持ちでそう言った。




「良いのよ楓駕。そんな風に今現在遅まきながら、あなたがちゃんと私がしている事を理解してくれたのなら」
  と心音はやさしく言って楓駕の肩にそっと手を置いた……。
< 142 / 179 >

この作品をシェア

pagetop