三種の神器‐戸嘴美園(こはし みその)の場合
「あっ、楓駕(ふうが)君別にあなたを責めてるつもりはないのよ。だから気にしないでね。だってあの頃の楓駕君はまだ小さかったんだし。




  でもね正直言って父親が実の母親よりも好きな女性が出来て、最終的に愛人である楓駕君のお母さまである心音さんを選んで、母親が家を追われるようになるまでの間、私は少なくとも父親と母親の醜いまでの夫婦喧嘩の現実をまざまざと見せつけられたの。




  その時の私はまさに絶望の真っただ中にいて、この世から即消えてしまいたいと思うほどに打ちのめされたの。でも千菊は私が過去にそう言う経験をしたと言う事を、知る由(よし)もなかったから、ただ単に私の父がファミレスを経営していて、経済的に裕福で良いなって思っていたんだわ。




  あっ、もしかしてこれってお互いさまか?千菊が私の事をそう見ていたように、私も千菊がそんな私の家庭を見てずっと羨ましく思っていた事に、ちっとも気付けないでいたんだもの」
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