スナック富士子【第四話】

煙草を挟んだ指は長く見える。少し太めの指でも、そして細目の指なら尚更、煙草を挟んだ指先はいつもほんの少し持て余した感じで手が綺麗に見えると思うのは、煙草の細さや長さがそんなふうに計算されているからなのだろうか。カウンターの男の手は細くも太くもない、ただの男らしい手だった。

そんなふうにぼんやりと彼の手を見ていると、彼の手の中指にペンダコがあることに気付いた。彼が富士子ママを見つめていることに気付いて、富士子ママは今度こそプロらしく笑った。
「お勉強家なのねえ。」
彼は「ん？」という顔をして微笑みを返した。彼のほうがずっとプロっぽいと富士子ママは思う。
「ペンダコがあるでしょう？」
「あぁ、これ・・・。筆圧が高いだけでしょう。」
彼は煙草をくわえて自分の中指を左手の人差指で摩った。富士子ママは、いつだったか誰かが身元不明の死体のペンダコを確認して職業を絞る話をしていたのをふと思い出した。この人はどんな職業についているのだろうか、と一瞬考えて、頭の奥へ押しやる。富士子ママは小鉢にナッツを入れてお盆に置き、蝙蝠傘の客のお酒を作っていた。