スナック富士子【第四話】

上田はどこにでもいる高校生で、スポーツ刈りの頭に少しにきびの痕があった。奥二重の目は真剣になるといつも眠そうに見えた。一年中真っ黒に日焼していて、腕も足も成長期らしい筋肉と脂肪がついていた。上田と僕は一年生から同じクラスで、同じサッカー部でいつもつるんでいた。休み時間も昼休みもいつも一緒に居て委員会活動も一緒だった。一緒に居ない事がないくらいだった。僕はその頃なんとなく自分の性的な嗜好が男性に向かうことに気付き始めたがそれは上田とどう、という事ではなかった。

僕らが高校二年生で、一樹は一年生だった。サッカー部に入った新入部員はたしか五、六人居てそのうちの一人はジャニーズみたいだと言われていたのが一樹だった。女の子にももてるし目立ったのだろうけれど、先輩や友達にさり気なく溶け込んでいくのが彼はとても上手かった。

よくある話だが、僕たちのサッカー部でも一年生は球拾いばかりさせられていた。三年生と二年生がコンビを組んで球を蹴りあう練習をしていた時、僕が取り損ねた球がちょうど一樹のほうへ飛んで行ったのに、一樹はぼんやりと遠くを見ていた。一樹の足元の球を拾いながら、僕が一言文句を言おうとしたとき、一樹はやっと気がついて焦って平謝りに謝るので僕はそのままボールを先輩の方へ蹴っ飛ばしたのだが、もう一度一樹を振り向いて、一樹が気になっているものに気付いた。上田と上田が組んでいた先輩がベンチの所で救急箱を広げていたのだった。

その時は一樹が特に上田ばかりを見ていると気付いた訳ではなかった。誰かが怪我したんだな、と思えばそちらが気になるというのは優しいいい子だなという程度にしか思わなかったし直ぐに忘れてしまった。

生物委員会でアヒル小屋を掃除していた時渡り廊下に居た一樹に気付いたのも僕だった。手を振るとペコリと挨拶して旧校舎へ歩いていったが、振り向き振り向きしている姿が気になった。運動会の大縄の練習をしていた時、一年生の教室の窓に動かない人影があった。一樹だった。上田と見あげて手を振るといつもよりも少し大げさに手を振り返した一樹はとても嬉しそうに見えた。あの運動会の練習の2週間、一樹はいつも窓から僕たちの練習を見ていた。同じ学校に居るのだから会って当然の学食でも図書館でも、多分一樹は、上田を見つけて、上田を目で追っていた。僕らが気がつかないだけでそんなことがいくらでもあったと思う。
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