スナック富士子【第四話】
第二話 「待ち人の約束」

 ドアベルが鳴る。こげ茶色のドアのクローサーの反対側に、よく言えばアンティークなフックが取り付けてあり、そこにそのドアベルが掛かっている。それは本来ドアベルなのかどうか分からないけれど、とにかくそれは富士子ママの遠い日の思い出と関係があるベルだ。ドアベルは太い三色織りのウールのテープに小さなカウベルが三つ着いていて、ドアのこげ茶色の塗装はベルが揺れるその部分だけはげて白くなっていた。

ビニール傘をクルクルと巻きながらその男性はカウンターの中の僕に会釈をして店内を少し伺うとドアから一番遠い角席へ向かった。僕はお冷とおしぼりを小さなお盆に載せて彼が居住まいを整えるのを待つ。


僕の高校時代からの悪友、一樹とこの店の常連の直紀さんが映画の話をし始めて、僕はそれを横耳で聞きながら傘立てをもう一つ出した方が良いのかどうか考える。それほど混むお店ではないけれど、いつも置いてある傘立ては少し細すぎるので雨降りの日には傘が一杯になってしまうからだ。そして、こんな雨の日にはきっと富士子ママが来る。
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