あの加藤とあの課長*another side
彼女は彼女なりに警戒もしているようだし。



(ただ…、その警戒も、人一倍弱そうだが…。)



ふと、加藤のジャケットが置きっぱなしなことに気が付いた。



(もし…。)



もし、これが計算だとしたら。

俺は、その計算に上手いこと嵌まった男になるんだろうか。



(それでも…加藤が手に入るなら。)



馬鹿な男にだって、なってやろう。


加藤のジャケットを持つと、隣の加藤の部屋を訪ねた。しかし、応答はない。

ケータイにかけてみるも、返事はなくて。


俺の部屋を出る前、少し様子がおかしかったのを思い出して、少し心配になって。

ロビーで傘を借りて、外に出てみた。


外に出てすぐの所で加藤を見つけて、息を飲んだ。

街灯の下、雨に打たれる加藤は、不謹慎だが、とても綺麗で。つい、しばらくの間見いってしまった。



「いつまでそうしているつもりだ。」



我に返って、そう声をかけた。



「ど…して…。」

「忘れ物。届けに行ったんだが。」



そう言ってジャケットを掲げて見せると、「明日でもよかったのに…。」と呟く。



「気になったからな。お前の様子がおかしかったから。」



そう言うと、また泣きそうな顔をする。
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