あの加藤とあの課長*another side
じゃあなんだ。コイツは、風間のために泣いてたっていうのか?

別れていたことにも少し驚いたが、今はそれよりも腹が立ってしょうがない。


灰皿で煙草を揉み消すと、加藤の目の前に立った。

気付けば加藤の頬に手を添え、「泣くな。」と一言、呟いていた。



「……止めてください。」



そう言う加藤を無視して、加藤の頬を撫でる。



「課長。」



頬を撫でる俺の手をきゅっと掴むと、静かに問うた。



「どうして、私なんですか…。」



弱り切ったような声を出したって駄目だ。
俺は、もう…。



「どうして、だろうな。」



どうしてなんて、俺が知りたいくらいだ。ただ言えるのは、コイツがすごく、魅力のある女だということだ。



「陽萌。」



初めて名前を呼んで。
唇を奪って。

戸惑う加藤を感じつつも、止める気は毛頭ない。



必ず、手に入れて見せる。

身体だけなんて、要らない。


心まで全部、全部、手に入れて見せる。
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