あの加藤とあの課長*another side
彼とは1度、例のバーで呑んだことがある。

まぁ、彼がいるであろうタイミングを狙ったのは俺だが…。



「あれ、陽萌はどうしたんですか?」



なんて、至って呑気なミナトさん。

どうやら、俺の周りには呑気な奴が多いらしい。



「加藤は、社の方で倒れてしまいまして。」

「…え?」

「この際ですから、ハッキリと申し上げさせて頂きますが。」



すっとミナトさんを見据えると、彼は少し構えて見せる。



「このままこちらに加藤を取られていては、いずれ仕事に支障が出ます。何より、加藤が持ちません。」

「っ……。」

「貴方と加藤がどのような関係なのかは知りませんが、これは仕事です。あまり私情を挟むのは止めて頂きたい。」



もしかしたら、この行動のせいで、この契約が駄目になるかもしれない。


それでも、別に構わない。

俺は、上司として。それ以前に、男として。



「ご理解いただけますか。」



ただ、加藤を守る。



「…ははっ。」



不意に、ミナトさんが乾いた笑いを漏らした。



「いやー、完敗です、生渕さん。」



悲しげに顔を歪める。



「バーで一緒に呑んだときから、ずっと気付いてましたけどね。俺は、仕事仲間としても、男としても、貴方に勝てそうにない。」



最後に「陽萌を、よろしくお願いします。」と頭を下げたその姿は、とても格好良かった。
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