あの加藤とあの課長*another side
「…陽萌。」



電飾の明かりに照らされたその顔は、出会った頃と変わらぬまま。

むしろより一層、その魅力を高めたように思う。



「俺と、結婚してくれ。」



陽萌の手を握る手に、力を込める。



「……源…。」



俺の手を、必死に握り返すその小さな手が愛おしい。



「は、い…っ。」



俺の目を真っ直ぐに見て、そう言ってくれた。

けれどすぐに、パッと俯いてしまう。


そしてボロボロと涙を零しているのが見えた。

いつも注意し続けた甲斐あってか、唇は噛んでいなかった。



「よろしく、お願いしますっ…。」



顔を上げて、そう言ってくれた陽萌。

安堵なのか、愛しさなのか、隠しきれない喜びなのか。思い切り顔が綻んでしまう。


そっとその左手を持ち上げて、左手の薬指に指輪をはめる。


泣き虫な陽萌は、その指輪を見て、より一層涙を流した。



「こちらこそ、よろしく。」



見つめ合って、照れたように笑い合って。

触れるだけのキスをして。


すごく、幸せだと、漠然と思った。



俺はお前に出会って変わった。

お前も俺に出会って変わったと、そう感じていればいいと、思った。



-完
< 56 / 57 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop