あの加藤とあの課長*SS集
陽萌に頼られたとき。
陽萌に抱きつかれたとき。

名前を呼ばれたとき。

笑いかけられたとき。


そのときだけ、アタシは男に還る。


アタシはオカマとしてだけじゃなく…、陽萌が大好きだった。




「…だから、陽萌と源を別れさせようと…?」

「察しの良い君なら分かるだろう?」



確かに元専務と常務の話も、アッキーが裏で糸を引いていたとなると、なんとなく辻褄が合う。



「邪魔しないでくれよ、敏。」



そう言い放ったアッキーの目は、強い意志を宿していた。



「……えぇ。」




アッキーも、源も、陽萌も、裏切れない。
誰の肩も持つことができない。


完全に宙ぶらりん状態のアタシはどうすることもできずに、ただ目の前の出来事に目を瞑るだけだった。




「辛そうだな、敏。」

「…誰のせいだと思ってんのよ。」



本音で言えば、陽萌と源の味方をしたい。

だけど、それにはアッキーに対して恩がありすぎる。




「そんなに辛いなら、渡米してみないか。」

「え…?」

「向うならゲイの敏も受け入れてもらえる、間違いなく。恐らくここよりも居心地がいいだろう、いろいろ意味でな。」

「……。」
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