あの加藤とあの課長*SS集
『まーた陽萌潰れちゃったじゃん。』



酔い潰れた陽萌に布団をかけてやりながら、晋三が呆れたように笑った。



『お前、襲いたいとか思わねえの?』



晋三は目をパチクリさせてから、はてと首を傾げた。

俺はそこまで鈍くない。晋三も陽萌を好きだってことくらい、知ってる。



『思わないよ。僕、陽萌が悲しむようなことしたくないし。』

『そんなの綺麗事じゃねえの?』

『……そうかも。』



ははっと笑う呑気な笑顔がやたらムカついた。

晋三の方が優位に立っていると言われているかのようで落ち着かなかった。


事実、晋三は陽萌と同じ部署だからずっと一緒にいるわけで、そこには俺の知らない時間がある。

それが悔しかった。



『僕は友達でいいんだ。』



陽萌の髪を一撫でして、晋三は柔らかく微笑んだ。この笑顔が女性社員に人気だったり。

(余裕かよ…。)



『陽萌の男関係、知ってるでしょ?』



俺は躊躇いがちに頷いた。

そんなの、知ってるに決まってる。
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